ダービーって何だろう
競馬新聞や競馬記事などを見ていると妙にダービーというレースが特別なレースであるように思わせるようなものが多々あります。
実際、生産者や厩舎関係者、騎手などのコメントなどからもダービーというワードが聞かれることが多いと言わざるを得ないでしょう。
中央競馬では2歳新馬戦はダービーの翌週から始まるなど日本の競馬界はこの『日本ダービー』というレースを中心に回っていると言って良いかと思います。
ただ、世間一般の間隔で言うとダービーよりも有馬記念の方が注目度は高いでしょう。
馬券の売上を見ても2022年はダービーが291億円、有馬記念は521億円となっており、ダービーは有馬記念に遠く及んでいないことが見て取れます。
これは2022年に限ったことではなく何十年も続いている現象であることからも有馬記念の方が大きな注目を集めていることは紛れもない事実です。
しかし、競馬界に於いてダービーは憧れであり、最高の栄誉であり続けています。
ダービーの出走、優勝を目指して生産、育成するということは多々あるでしょうが、有馬記念をそうした究極目標とする関係者はそう多くはないでしょう。
何故なのか…?
筆者はこれまで28年間ファンという視点でこの世界を見続けてきました。
その中で関係者からダービーというレースが如何に尊い存在なのかということを何度となく感じさせられています。
しかしながら、個人的にはダービーというレースはG1レースの1つという思いは少なからず持っています。
そこに何とも言えない違和感を感じながらこのレースを見続けています。
では、何故ダービーはそれほどまでに特殊な存在なのか考えてみます。
かつて日本の競馬は近代競馬発祥の地と言われるイギリスの競馬を規範として番組が整備されてきた経緯があります。
そのイギリスで最初のダービーが行われたのは今から233年前。日本が江戸時代の事です。
元々は将来の繁殖馬の選定という目的に於いて行われていた側面がありましたが、時代と共にダービー自体が究極の栄誉と変容し、ウィンストン・チャーチルが『ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になるより難しい』と言った、などという言葉まで生まれています(実際には言っていないらしいのですが)。
近代競馬の祖でもあるイギリス競馬でそうした価値観が出来上がり、各国の競馬界もそれに倣うかのようにそれぞれの国でダービーを創設、それぞれの国に於いて最高の栄誉こそダービー、という価値観をも受け継いでいったようです。
日本もその例外ではなく、今から90年以上前にダービー(当時の正式名称にダービーの呼称はついていないのですが)が創設されています。
その当時のダービーはその栄誉の高さは賞金額にも十分に反映されており、各国のダービーと同様に日本でも国内最高の優勝賞金、それも次位のレースの4倍以上という破格の高額賞金とされていたそうです。
そのため、ダービーは唯一無二の特別なレースとして競馬界に定着しています。
しかし時代は流れ、各国に於いてダービーが最高賞金を誇るレースではなくなります。
きっかけはフランスの凱旋門賞ではないかと思います。
ダービーの創設より遥か後の出来事となりますが、1920年に衰退していたフランス競馬の再興を掲げた一大プロジェクトとして最強馬決定戦といて創設された凱旋門賞。
第二次世界大戦後に大幅な賞金増額により世界最高賞金レースとなったことなどで成功を収め、世界各国でもそれに倣うように徐々に超高額賞金レースが行われるようになります。
日本もその例外ではなく、古馬G1にもダービーと比較しても見劣りしないような高い賞金が掛けられるようになります。
加えてファン投票で出走馬を選定し、年末に行う大一番として有馬記念が定着。
有馬記念はその年のトリを飾る一大イベントとして大成功を収めることになります。
結果、今ではダービーの優勝賞金は2億円、ジャパンカップと有馬記念の優勝賞金は5億円と賞金面でも完全に後れを取った形となります。
しかし、長年に渡って築かれ続けてきたダービーの威光というものはそう簡単に崩れるものではなく競馬関係者の中に今でも強烈にあり続けているのではないかと思います。
しかし、それがファンの立場となった場合、そうした背景というものは感覚として感じにくいものでもあります。
私自身、競馬に触れて間もない頃には『何でダービーだけが特別に扱われているんだろう?他と同じG1でしょう?』との思いがありました。
良く聞くフレーズで『ダービーは生涯1度きりの舞台だから』というのを聞いても、『それって桜花賞も皐月賞も同じじゃん、2歳、3歳限定戦は全部生涯1度きりじゃん』と感じるわけです。
これを読んでくださってる方も少なからずこうした思いを感じたことはあるんじゃないかと思います。
例えが正しいのかわかりませんが、『甲子園を目指す野球少年』みたいなもんでしょうか。
高校球児にとっては究極の憧れであり続ける甲子園という舞台。
それに対するプロ野球、みたいな。
実際、私は高校野球よりレベルの高さが感じられるプロ野球の方が面白いし、魅力を感じます。
しかし、高校球児や元高校球児にそう言うと大概は『そうじゃないんだよ』となるわけです。
恐らく、ファンが有馬記念でダービー以上に盛り上がっているのを見て、関係者は『そうじゃないんだよ』となるんでしょうね。
ぶっちゃけそこに正解なんてないわけです。
1人1人がどんな思いでダービーを見ようが勝手なんですよね。
高校球児が究極の憧れを抱くようにダービーを一際特別なレースであるとの認識を持っていてもいいし、単なるG1の1つとして認識するのもいいわけです。
ただ、個人的な感想としては少なくとも今でも多くの競馬関係者はダービーというレースは最高の憧れを持たせる究極の栄光として存在し続けているのは紛れもない事実で、そこへ向かって生産、育成、調教などを続けてきており、そうした思いの集大成であると理解した上でこのレースを見ると単なるG1として認識するのよりより競馬を楽しめる思いが生まれるんじゃないか、なんて思ってたりします。
2021年JRA賞
2021年のJRA賞が発表されています。
既に様々な媒体にて報道はされていますが、筆者の所感も含めて改めて触れてみることにしましょう。
年度代表馬・最優秀3歳牡馬
エフフォーリア
皐月賞を圧勝し、断然人気に推されたダービーこそ僅かハナ差でシャフリヤールに敗れますが、秋は菊花賞には出走せず古馬相手に天皇賞に出走、コントレイル、グランアレグリアと共に3強を形成。レースではその3強が抜け出す痺れる激戦となる中で先頭でゴールを駆け抜けたのはエフフォーリアでした。
更に有馬記念にも出走、前年覇者のクロノジェネシスらを相手にここでも力強く抜け出して優勝、3つ目のG1タイトルを手に2021年を終えることとなりました。
同馬の受賞については全く異存はありません。
クラシック3冠制覇にも匹敵する戦績、内容であり、最優秀3歳牡馬は勿論、年度代表馬に十分に相応しい走りを見せています。
2022年は大阪杯から宝塚記念のローテが有力視されています。
国内最強馬としての活躍に大きな期待が掛けられます。
最優秀2歳牡馬
ドウデュース
新馬戦、アイビーステークスを連勝し、3番人気に推された朝日杯フューチュリティステークスでは粘り込みを図ろうとする人気のセリフォスを差し切って無傷の3連勝。
これが評価されて最優秀2歳牡馬に選出されています。
奥手の血で知られるハーツクライの産駒ですが母父は早熟で知られるヴィンディケイションで、これからどう成長するかが楽しみな1頭です。
ホープフルステークスのG1昇格で毎年の様に語られるであろう同レースとの比較ですが、ホープフルステークスはキラーアビリティが勝利。
個人的には2021年については朝日杯の方がメンバー的に見て重賞上位馬の参戦も多く、レースの水準的に見てドウデュースの受賞は無難なところかと感じます。
正直に言うと2歳牡馬戦線についてはやや小粒な印象です。
最優秀2歳牝馬
サークルオブライフ
2戦目の未勝利戦を勝利、アルテミスステークスでは人気薄ながらもしぶとい末脚で連勝。暮れの阪神ジュベナイルフィリーズでは外から豪快な末脚を繰り出して優勝。
血統的にもマイルよりは距離伸びて真価を発揮しそうな馬でもあり、エピファネイア産駒からまた1頭、楽しみな馬が現れました。
同馬の最優秀2歳牝馬受賞については全く異存はありません。
他に同馬に匹敵するパフォーマンスを見せた馬はいませんし、勝ちっぷりも破った相手も文句はありません。
一瞬に斬れはそれほどでもない一方で長く脚を使い続けるタイプだけに極端な瞬発力勝負にならなければ容易に負かすことは難しいかと。
最優秀3歳牝馬
ソダシ
昨年の2歳女王。
ぶっつけで挑んだ桜花賞では早めのスパートで瞬発力で勝負する馬達を並ばせることなく完封して無傷の連勝を5に伸ばしてみせました。続くオークスでは人気に推されるも8着と完敗。
夏の札幌記念で始動。早めに先頭に立つ積極的なレースでこの後にBCフィリー&メアターフ、香港カップを連勝することになるラヴズオンリーユーの追撃を抑えて優勝。
秋華賞では人気になるもゲートに顔をぶつけた影響か良いところなく惨敗、ダートへと矛先を変えたチャンピオンズカップではハナを切って逃げるも大敗。
単純な実績という点に於いてはオークス馬ユーバーレーベン、秋華賞馬アカイトリノムスメと大差ないと言わざるを得ず、決して安定もしてはいなかったのですが、個人的には札幌記念でのラヴズオンリーユー撃破は評価したいところで、まあ受賞については妥当なところかと思います。
最優秀4歳以上牡馬
コントレイル
極悪馬場で行われた大阪杯ではレイパパレに離されての3着。以降は休養に充て、秋初戦に選んだのは天皇賞(秋)。万全とも言われる仕上げで1番人気で挑み、中段から上がり最速の33秒0の脚を繰り出すも3歳エフフォーリアには届かず2着。
ラストランとなるジャパンカップでは格の違いを見せるような末脚で2馬身差の完勝劇で3冠馬らしいポテンシャルを発揮して有終の美を飾っています。
古馬牡馬でJRAのG1を複数勝った馬はいませんでしたし、海外G1を含めても同馬と同等以上の活躍を見せた馬はいなかったことから、同馬の受賞は妥当なところでしょう。
どうしても歴代の3冠馬、特にシンボリルドルフ以降の馬と比較して見劣るような評価となってしまっている感は拭えないのですが、2、3、4歳とG1を制してJRA賞を受賞したのは同馬だけです。
最優秀4歳以上牝馬
ラヴズオンリーユー
京都記念を制してドバイシーマクラシックへと遠征、ミシュリフ、クロノジェネシスと激戦の末に3着。その後、直接転戦した香港、クイーンエリザベス2世カップでは後に香港ヴァーズ2勝目を挙げるグローリーヴェイズ、牝馬3冠のデアリングタクトを抑えて優勝。秋にはアメリカ、ブリーダーズカップフィリー&メアターフへと遠征し、馬群をこじ開けて抜け出して日本馬史上初となるブリーダーズカップ制覇の偉業を達成。
そのまま香港へ転戦、香港カップでも迫るヒシイグアスを競り落としてここでも優勝。
まるでゲームのような海外転戦をものともせずに年間G1、3勝という異次元とも思われる快挙を成し遂げました。
たられば、は意味のないことかもしれませんが仮にエフフォーリアが有馬記念で2着以下に敗れていたなら間違いなく年度代表馬に相応しいのはこの馬だったでしょう。
最優秀短距離馬
グランアレグリア
2000mの距離に挑んだ大阪杯では4着、続くヴィクトリアマイルは牝馬相手とは言え、まざまざと力の違いを見せつける4馬身差の楽勝劇。安田記念はダノンキングリーに敗れての2着。再び2000mに挑んだ天皇賞ではエフフォーリア、コントレイルに及ばずに3着。ラストランとなったマイルチャンピオンシップではタイトなローテながらも同馬らしい強烈な末脚を発揮して優勝し、最優秀短距離馬に選出されています。
マイルG1で2勝2着1回の実績はマイル以下の距離では頭1つ抜けたもので同馬の受賞に関しては全く異存はありません。
近年では国内最強マイラーだったと言って良さそうですね。
香港で無敵を誇るゴールデンシックスティには果たしてこの馬でも勝てなかったのでしょうか?
最優秀ダートホース
テーオーケインズ
アンタレスステークスで初重賞制覇するや続く帝王賞では後続に3馬身差をつける完勝で一躍ダートのトップホースへと躍進。秋初戦のJBCクラシックでは4着に敗れるも続くチャンピオンズカップでは前年の覇者であり、ドバイワールドカップ2着の中和ウィザードに6馬身もの大差をつけての大楽勝。
G1での強烈な勝ちっぷりもあり、最優秀ダートホースを受賞するに至りました。
シニスターミニスター産駒らしい爆発力の高さを存分に示した同馬ですが、個人的には人気で蹴って人気薄で買いたいタイプですかね。
ただ、正直に言うとこの部門に関してはブリーダーズカップディスタフを制したマルシュロレーヌにすべきかと感じます。
最優秀障害馬
昨春の中山グランドジャンプを制して以降、3戦して勝ちきれないレースが続いて『さすがにもう10歳だけに…』という見方も少なくない中での暮れの中山大障害。
先行して直線力強く先頭を駆けていたのはオジュウチョウサンでした。
単に戦績という観点で見ると中山グランドジャンプも含め2戦2勝のメイショウダッサイが同等以上にも思えないでもないですが、暮れのレースを制した印象の強さと絶対王者の復活劇という側面が受賞を後押しした感は拭えませんが、中山大障害の障害界に於ける格を考えるとまあ妥当なところでしょうか。
明けて11歳ですが、現役続行の意向とのこと。種牡馬としての需要には殆ど期待できないだけに走れるだけ走らせようということでしょうか。
筆者所感
各所で話題となっているのがマルシュロレーヌの扱いです。
北米調教馬以外に優勝馬が出ることが1度もなかったブリーダーズカップディスタフ。
2021年に於いては近年でも最高水準のメンバーとも言われていた中での勝利。
事実、1200mの通過タイムはスプリント戦の勝ちタイムという衝撃的な激流となり、勝ち時計も歴代の中でも上位に位置するものとなりました。
間違いなく日本競馬史に残る大偉業だと言って良いでしょう。
ところが、JRA賞では最優秀ダートホースに選出されなかったばかりか特別賞すら受賞できなかったためにブリーダーズカップディスタフ制覇の歴史的偉業があまりにも軽く扱われ過ぎていないかということでネットでも激論が展開されています。
確かに非常に扱いにくい戦績です。
国内での戦績で言えば牝馬限定の交流重賞勝ちまでしかなかったわけです。
『JRA』のレースに限れば平安ステークス3着の1戦だけとなります。
確かにここだけを見てしまうと全く評価すべき戦績ではありませんね。
交流重賞をどのように扱うべきなのか、国外でのレースをどのように扱うべきなのかという点に於いて現制度があまりに曖昧過ぎます。
JRA賞は記者の投票に依って選出されるという方式なのですが、言ってみれば選考基準を個々の記者に丸投げしてしまっており、結果として明確な基準となるものが存在していません。
そして毎年のように『???』と思えてしまうような馬に票が入ったりもしています。
戦前には近年最高のハイレベル戦とも言われていたブリーダーズカップディスタフのレベルや歴史的経緯、レースとしての権威などを投票に参加した記者全員がきちんと把握していたのでしょうか?
個人的な見解としては、今の制度をわかりやすく変更すべし、ということ。
現在のJRAの記者投票制度というのは1987年から続くものです。
当時は交流重賞は存在していませんでしたし、海外遠征する馬は殆どいませんでした。
しかし時代は変わりました。
今年のラヴズオンリーユーのように海外のG1を何戦もする馬は今後も出てくることでしょう。
スマートファルコンのように交流重賞を転戦してJRAのレースに殆ど出走しない馬も出ることでしょう。
そうしたケースに今の投票制度に於いてはあまりに基準が曖昧過ぎると言わざるを得ません。
提案としては、各レースをポイント制にすべきかと。
例えば皐月賞は8ポイント、ダービーは10ポイントといった具合にです。
これならば帝王賞は5ポイントだとか香港カップは8ポイントだとかで、国内外のレースに於いても明確な基準が出来ます。
ポイントの基準はレーティングとレース自体の権威から年々調整を行いながら定めれば良いでしょう。
それに特筆すべき点があった場合、例えば2020年のジャパンカップのように非常にレベルの高かったレースにはボーナスポイントを付与すれば良いかと思います。
その上でポイントが並んだ時に記者投票を行えばいいのではないでしょうか。
一定のポイントを上回って受賞に至らなかった馬に特別賞を与えるといった形で。
この方式が良いか良くないかはさておき、現制度には無理が生じてきているのは明確です。
このまま無理な状況を続けていくことはJRA賞の価値そのものが低下していくことにもなります。
JRAには本気で改革に取り組んで頂きたいというのが何よりの本心ですね。
日本馬初、BC制覇達成
2021年、ブリーダーズカップフィリー&メアターフをラヴズオンリーユーが勝利、そしてその余韻も冷めない内にブリーダーズカップディスタフでマルシュロレーヌが見事に勝利を収めることになりました。
筆者の事で恐縮ですが、90年代にダビスタがきっかけで競馬の世界へと足を踏み入れることになりました。
当時、海外の競馬というものはまだ日本の競馬会にとっては果てしない夢の世界でした。
今でこそ、凱旋門賞など海外のビッグレースの馬券が売られていたりしますが、当時の日本の競馬ファンは国外の競馬に触れるのはせいぜいジャパンカップの時くらいなものでした。
海外競馬といえば必ずと言って良い程、名前が挙がる合田氏が当時は『いきなり凱旋門賞などはおこがましいのではないか』とコメントされていたのを記憶しています。
凱旋門賞、ブリーダーズカップというのは1ファンでもあった当時の筆者に取っても果て無き究極の夢でもありました。
それから20数年を経て、その夢の一部が現実のものとなりました。
果敢にブリーダーズカップへと挑戦し、栄冠を手にした矢作調教師、川田騎手、マーフィー騎手、DMMにキャロットクラブなど関係者の方々には改めて敬意を表します。
ここでは今回の快挙について筆者なりに色々と記していくことにします。
ブリーダーズカップフィリー&メアターフ
同競走の創設は1999年。それ以前のブリーダーズカップはクラシック、マイル、ターフなどの7競走からスタート。1999年にアメリカ芝牝馬最強決定戦として同競走が新設されています。
格付けはG1。基本的には芝2200mで行われ(毎年開催競馬場が持ち回りで変わるブリーダーズカップは行われる競馬場によっては違う距離条件で行われている)、名実ともに北米芝牝馬最強決定戦としてだけでなく、欧州からも有力馬が遠征してくるレースでもあり、『世界最高の芝牝馬限定戦』としての位置付けが相応しいレースとして定着しています。
23回の歴史の中でアメリカ馬以外が制したのは今回のラヴズオンリーユーを含めて12回となっています。
2021年に行われたのはカリファルニアにあるデルマー競馬場。
同競馬場の芝コースは1周が1400m強となり、コーナーがキツく、直線も249mしかない非常にタイトなコースとなっています。
JRAの競馬場で最も直線の短い函館競馬場よりも13m短いコースであり、外目を回されてしまうとコースロスが非常に大きく、直線での巻き返しも困難なために前目で競馬を進めることが求められ、先行争いが激しくなりやすいコースとなります。
日本ではラヴズオンリーユーが1番人気に推されてはいましたが、現地やブックメーカーのオッズでは同馬は差のない3番人気程度。日本のオークスを制し、春にドバイシーマクラシックでミシュリフの3着、香港のクイーンエリザベス2世カップを制しており、世界的にも十分に有力馬として認識されていました。
現地アメリカで4連勝中で前走G1フラワーボウルSを制していたウォーライクゴッデス、欧州でG1を5勝してトップホースの1頭として認知されているラヴの2頭が上位の評価を受けていました。
レースは序盤から先行各馬が果敢に飛ばして2200mのレースらしからぬ早めのペースに。
ラヴズオンリーユーはやや外目の枠から5番手で待機。包まれる危険性が高いことを見越してか内には入れず、中ほどで追走。
馬群が直線手前に入っても前の馬はバテず、ラヴズオンリーユーの前には壁が。
短い直線に入っても前は詰まっていたものの、それでも僅かに開いたウォーライクゴッデスとマイシスターナットの隙間を突いてラヴズオンリーユーと川田騎手が急襲し、前で粘る2頭を並ぶ間もなく抜き去ってのゴール。
この瞬間、日本馬による史上初のブリーダーズカップ制覇の偉業が成し遂げられたのでした。
勝ちタイムは2:13.87。
日本と違いゲートが空くと同時に計測されているタイムですから日本のG1とほぼ同等か僅かに遅いくらいのタイムと言えるでしょう。
この勝利でラヴズオンリーユーは3つ目のG1タイトル。
かつてブリーダーズカップクラシックを制した偉大な祖父サンデーサイレンスの血が約30年の時を経てブリーダーズカップを制することとなりました。
同馬の適正を的確に見抜いてここに狙いを定めて勝ちに行った矢作師は流石の一語。
私見ですがラヴズオンリーユーは斬れに偏ったタイプではないと見ています。
ディープインパクト産駒としては比較的重厚なパワーのあるタイプで、上がり33秒で上がってくる瞬発力はない一方で、34秒台の脚をしぶとく使える馬ではないかと見ています。
今回のレースでは最後に一気に前を捉えていますが、同馬が爆発的な斬れを発揮したというよりは前の馬が止まりかけたところにあって、全く止まらなかったラヴズオンリーユーが差し切った、という印象です。
邪推ではありますが、矢作師はそのことも踏まえて今春は大阪杯やヴィクトリアマイルではなく、ドバイや香港の芝により高い適性を持つと判断していたのではないでしょうか。もちろん、デルマーの芝コースへの適性も高く、余程の相手でなければ十分に勝てると見越して。
ブリーダーズカップディスタフ
同競走は1984年にブリーダーズカップの創設と共に誕生。ダートが主流のアメリカに於いて最強牝馬決定戦として創設され、牝馬限定戦としてはフィリー&メアターフと並び世界最高賞金額の競走として施行されています(尚、これに続くのが日本のエリザベス女王杯)。
これまで38回の歴史に於いて昨年までの37回全てで北米調教馬が制してきているレースでもあり、『海外』の馬がこのレースを制したのは2021年のマルシュロレーヌが初めてとなる。
格付けは創設以来一貫してG1。初期にはダート2000mで行われていたものの、1988年以降は距離が1800mで固定されています。
2021年、舞台となったデルマー競馬場のダートコースはアメリカの一般的な競馬場と同様に芝コースの外にダートコースが設置され、1周は1600m、直線は280mとなっています。
JRAの競馬場と比較すると小倉競馬場のダートコースより少し短い直線となります。
芝同様にこちらもかなりタイトなコースであり、外目のコースを回れば大きなコースロスは避けることが出来ない状況。故に厳しい先行争いをしてで前に行かざるを得ないコースとなり、早いペースになりやすくなります。
日本から参戦のマルシュロレーヌは全くの人気薄。日本国内では重賞4勝を挙げているものの牡馬相手の帝王賞では完敗していることに加えてこれまで日本の最強クラスのダート馬達が軒並みアメリカでは通用してこなかったことなどから不人気も致し方ないところでしょうか。
人気を集めていたのは4つのG1を含む破竹の5連勝中と最強牝馬の座をモノモイガールから奪い去った5歳馬レトルースカ。これに続く存在と目されたのが今年のケンタッキーオークス馬でアラバマステークスを制して世代最強とも言われるマラサート。
日本に例えればエリザベス女王杯でアーモンドアイとクロノジェネシスにG1未勝利の外国馬が挑むようなものだろうか。
レースは序盤から激しい先行争いが展開。序盤の800m通過は驚異の44秒台。
はっきり言ってスプリント戦のラップ。実際に1200mの通過ラップはBCスプリントの勝ち時計と1秒強しか違っていませんでした。
このとんでもない激流に対してマルシュロレーヌは馬群の後方で待機する形に。
馬群が3コーナーに入り、後方にいたマルシュロレーヌが馬なりのまま前との差ををどんどんと縮めていき、直線を前に早々と脚をなくした先行勢と入れ替わりに早くも先頭へと躍り出る。
先頭で走るマルシュロレーヌの脚はなかなか衰えず、同じく後方に待機していたマラサートとダンバーロードがジリジリとその差を詰め、激しい叩き合いになる中、マルシュロレーヌも必死に粘り、僅かにハナ差先着して優勝。
勝ちタイムは1:47.67。激しいペースもあって歴代の勝ちタイムと比較してもなかなかの好タイム。
仮に日本のダートと比較するなら日本レコードレベルの好時計と言えるでしょう。
マルシュロレーヌは父がオルフェーヴル。サンデーサイレンスの曾孫に当たります。
ラヴズオンリーユーと同様、偉大なサンデーサイレンスの血がブリーダーズカップ制覇の栄冠を成し遂げたのでした。
印象的なのは同馬の血統でしょう。
父は日本の三冠馬オルフェーヴルであり、ステイゴールドを通じて日本で育まれた血であり、その血にはメジロマックイーン、ノーザンテースト、ディクタスと80年代以降の日本競馬を彩ってきた血でもあります。
いかにも日本らしいその血がアメリカ競馬最高峰であるブリーダーズカップディスタフを制したのでした。
こちらも矢作師の見込みが的中した形で、超ハイペースになることを予め見越しての挑戦でもありました。
日本のダートとは違い、パワーだけでなく高いスピード能力が求められるアメリカのダートに対して芝でもオープン級の実力を示していた同馬に可能性を見出し、ラヴズオンリーユーと共に連れていくことで互いのメンタル面にとっても良い影響を考えての遠征でした。
競馬ファン、関係者にとっては長年『夢』の世界だったブリーダーズカップは遂に現実のものとなりました。
しかし、これは今回偉業を成し遂げた矢作師やその関係者は勿論のこと、マテラスカイらを遠征させた森調教師、かつてタイキブリザードなどを遠征させた藤澤師など、これまで挑み続けてきた人達の努力、工夫、経験などがあったからこそに他なりません。
夢を現実にするためには挑まなければ絶対に実現することはないのですから。
2021年 東京優駿予想
30日は東京競馬場にて東京優駿こと日本ダービーが行われます。
昨年はコントレイルが完璧なレース振りでサリオスを突き放して圧勝、皐月賞に続いてクラシック二冠を達成。
その後、菊花賞をも制してオルフェーヴル以来となるクラシック三冠馬に輝くことになります。
今年の皐月賞では好位追走から直線、後続馬を一気に突き放してエフフォーリアがコントレイルに続いて無敗のまま戴冠しています。
当然ながら、このダービーに於いても圧倒的1番人気は確実なものとなっています。
一方、エフフォーリアに挑もうとする他馬達ですが、netkeibaの予想オッズでは2番人気に紅一点、桜花賞2着のサトノレイナスが推されています。
同馬はサトノフラッグの全妹でもあり、早くからマイルよりは中距離でこそ真価を発揮するのではないかとも言われており、エフフォーリア以外の牡馬達に際立った存在がいない中で人気を集めることになりそうです。
この時期と言うこともあり、天候もポイントとなることが少なくないダービーですが、週末の府中市は好天が予想されており、良好な馬場状態で行われる可能性が高くなっています。
このまま馬場状態が良好なまま推移すれば、勝ち時計も先週のオークスを上回り、2:24を切ってくる可能性は低くはないと見ます。
◎ エフフォーリア
最内1番枠を引き当てましたが、比較的前でレースを進めたい同馬にとっては上々の枠順ではないでしょうか。
エピファネイア産駒ということで折り合い面での不安も少なからず感じさせる血統ではありますが、ここまで4戦では折り合いを欠く場面は見せてはおらず、鞍上を務める横山武史騎手が落ち着いて騎乗出来れば無難に折り合えそうか。
距離的にも2000mよりはむしろ2400mでこそ真価を発揮しそうな血統の持ち主で、不安よりは期待の方が大きい印象。
極端な瞬発力勝負に持ち込まれた際の懸念は多少ありますが、それもある程度前々で競馬できれば問題はないものと見ます。
やや気になるのは騎乗する横山騎手。技術的には若手騎手の中でも非常に優れており、その点での問題はないと思いますが、何せ経験値がまだ不十分なだけにこのダービーの重圧の前に普段通りのレース運びが出来るかがポイントでしょうか。
〇 タイトルホルダー
皐月賞ではエフフォーリアに3馬身突き放されてしまいましたが、この馬自身はそう悪い走りではなかったと見ています。決して緩くはなかった流れを先団で進めながらも2着に粘り込み、後続の追撃を辛くも抑えています。
血統を見るとドゥラメンテ×モティベーター。半姉にメロディーレーンがおり、スタミナ能力に於いては2000mより長い距離でこそ真価を発揮すると思うのが自然なものを持っており、2400mの距離に関しては問題ないと見ており、菊花賞まで十分に期待が持てるものと思います。ただ、瞬発力に関しては少なからず不安も感じさせるだけに積極的なレース運びに期待したいところか。
▲ ラーゴム
3番手にはきさらぎ賞を制しているラーゴムを。
皐月賞では良いところなく敗れていますが、個人的な見解としては中山芝2000mよりは東京芝2400mの適性が高い馬ではないかと見ています。
母系はアメリカンなスピードとパワーを感じさせる血が多いのですが、父はオルフェーヴル。これまでの走りからも持久力自体は決して低くはないと見ています。
瞬発力勝負では分は悪い面があるだけに主戦の北村騎手と替わった浜中騎手の手腕も問われるレースともなりそうです。
人気はありませんが、上位進出も十分あり得ると見ます。
△ シャフリヤール
毎日杯で驚異的なタイムをマークし、一躍大きな注目を集めた同馬。
イメージ的には全兄のアルアインが思い起こされるのですが、スピードの持続性に長けた中距離馬タイプであるように思われます。緩急が効くタイプではないと思われるため、やや遅めの流れである程度先行して…というのが好走パターンでしょうか。
緩急の激しい展開や早いペースだと脆さが出てしまうように感じますが、その一方で自分のパターンにハマると強さが際立つタイプだけにマークは必要と見ます。
× サトノレイナス
牝馬ではありますが、阪神ジュベナイルフィリーズ、桜花賞で見せた能力は世代トップレベルと見ても差し支えなく、ここで上位人気に推されても決して不思議ではありません…が、やや過剰人気にも感じられます。
マイルよりは2000mくらいの方が向きそうな馬ではあり、そのくらいの距離適性ならばダービーやオークスでも十分勝負になるのは歴史が証明しています。
加えて鞍上は現役最強ジョッキー、ルメール。人気もやむなし、といった印象ではありますが、大外枠を引いたことも加えてあまり過信は出来ないと見ての評価となります。
2021年 天皇賞(春)予想
今年の天皇賞(春)は京都競馬場が改修工事中のため、阪神競馬場芝3200mで行われます。
阪神競馬場で天皇賞(春)が行われるのは1994年にビワハヤヒデが制した時以来27年振りとなります。
阪神競馬場芝3200mでは殆どレースが行われておらず、同コースのデータとしては2か月程前に行われた3勝クラスの松籟ステークスだけしかないと言ってもいいでしょう。
勿論、騎乗するジョッキー達にもコース経験はほぼありません。
尚、このレースでは後続に3馬身差で逃げ切っているのがディアスティマ。
同馬は年末のグッドラックハンデでも後続に7馬身差を付ける逃げ切り(もっとも、逃げ切りとは言っても上がり3ハロンタイムは最速でしたが…)を収めており、天皇賞(春)でも人気の一角となることが予想されています。
個人的にはデータを重視しての予想スタイルを取っているだけにデータらしいものがないここは非常にやりにくい一戦でもあります。
ただ、3200mという距離は近年の日本競馬に於いては非常に異端の条件だと言って良いでしょう。
それだけに個々の適性の差が非常にハッキリと出やすい条件だとも言えます。
ビッグデータを使った予想が出来ない以上、各馬のこれまでの走りや血統などを中心に好走馬を探っていこうと思います。
今回の阪神芝3200mは変わったコースで、1周目は外回りで、2周目に内回りとなるコースで、直線は356mとなります。
356mの直線と言うと中京と中山の中間くらいの長さになります。
直線だけで容易に追いつける長さでもないだけに3~4コーナーあたりからのロングスパート戦になりやすいコースであると言えます。
◎ ディアスティマ
この馬については2歳時から見ていて当時のイメージとしては「ディープインパクト産駒だけどジリ脚で瞬発力に欠けるものの容易にはバテずにしぶとく脚を使い続ける馬」といったものでした。ところが暮れの2勝クラスグッドラックハンデで有無を言わせぬ圧勝。持久力のポテンシャルが違うと思わずにはいられない走り。続く前走の松籟ステークスで後続を全く寄せつけることなく完勝しており、個人的に抱いていたディープインパクト×ストリートセンスの配合イメージを破壊させた走りを見せています。
同馬の血統表を見てみてもそれほどの持久力を感じさせるような馬の血はあまり見られないのですが、この2戦を見る限りは間違いなくステイヤーらしい持久力を持っていたと見るのが妥当だと感じます。比較的内の枠を引いた同馬にしてみればこのコースで前に行けるのは強みでもあり、前走残り2000m地点から5ハロン連続で12秒以下のラップを刻んでみせた走りを評価して◎に。
○ ディープボンド
同馬もディアスティマ同様、早くから典型的なジリ脚タイプとしてジワジワ頭角を現していましたが(これまでの上がり3ハロン最速が34.9)、前走の阪神大賞典では残り1800m地点から5ハロン続けて12秒2前後のラップを刻み、ついてきた先行勢は次々に脱落、終わってみれば後続に5馬身差をつける圧勝劇となりました。
やはりこちらも瞬発力はない一方、底無しの持久力を持っていると見るべき走りを披露しています。ディアスティマが逃げると思われる展開ですが、同馬はスタミナを生かした走りに持ち込もうとするだけに中盤からの持久戦になる公算は決して低くはないと見ます。瞬発戦となればもう用なしでしょうが、その可能性は高くはないと見て〇評価とします。
▲ ワールドプレミア
菊花賞を勝ってはいますが、生粋のステイヤーではないと見ています。むしろ弟のヴェルトライゼンデの方がステイヤー資質は上かもしれません。ベストは2400m強といったところでしょう。ただ、絶対的な能力値はメンバー中でも最高クラスだと見ており、多少の適性の差は能力の高さで十分に補える相手だと見ています。
ここは上記2頭に続く▲評価とします。
△ ユーキャンスマイル
2000~2400mの距離でもそれなりに結果は出していますが、現状では3000mクラスの方が良さそう。究極レベルの持久戦となると厳しいかもしれないが、ゴールドシップ級はいないここなら同馬にも十分にチャンスあり。中団から後方寄りで競馬を進めるタイプだけに前の馬の動向次第となるが、末脚が生きる展開ならば浮上すると見ます。△評価に。