種牡馬 ディープインパクト
競走馬としては偉大なるサンデーサイレンスの最高傑作であり、日本競馬史上最強クラスの能力でG1を7勝、種牡馬としては内国産種牡馬としては日本競馬史上最高の実績を誇るディープインパクトについて触れていくことにします。
父は前述しているように日本競馬に革命を引き起こしたと言っても過言ではない、歴史的大種牡馬サンデーサイレンス(その父ヘイロー)。
母は自身が妊娠中にアラルポカル(独G1)を制するなどの活躍を見せていたウインドインハーヘア(その父アルザオ)という血統。
半姉にシーキングザゴールドを父に持つ持ち込み馬レディブロンド、全兄にスプリングステークスを制し、種牡馬としてキタサンブラックなどを出したブラックタイド、全弟オンファイアも種牡馬として3重賞を制したウキヨノカゼを出しています。
小柄な馬体だったこともあり、セレクトセールでは当時のサンデーサイレンスの牡馬産駒としては比較的安価な7000万円で落札されています。
ただ、入厩後の追い切りでは既に只ならぬ動きを見せており、デビュー前にして追い切りに騎乗した武豊に「この馬ヤバいかも」と、言わせています。
そのデビュー戦では後に4重賞を制することになるコンゴウリキシオーを相手に全く余裕の手応えでそのコンゴウリキシオーを1秒上回る上がりをマークし、4馬身突き放して楽勝。
続く若駒ステークスではレースの上がりが36.1秒となる中で驚愕の33.6をマーク、異次元の末脚で5馬身突き抜け、この時点で既にナリタブライアン以来の3冠制覇を期待する声が多数聞かれることに。
弥生賞ではアドマイヤジャパンと僅差の勝負ながらも快勝。
しかし、単勝1.3倍に推された皐月賞ではまさかの目を覆わんばかりの大出遅れ。
それでも難なく馬群に取り付くと何事もなかったかのように直線では豪快な末脚を繰り出し、シックスセンス、アドマイヤジャパンらを一蹴し、楽勝。
この桁外れの強さにダービーでは更に人気を集める単勝1.1倍に。
直線では満を持して大外に持ち出されるや最内で必死に粘るインティライミをあざ笑うように馬群を大きく突き放し、5馬身千切っての大楽勝。
後にこの末脚のあまりの威力に手綱を取った武豊からは「飛んだ」という表現がなされた程でした。
秋も神戸新聞杯を楽勝し、菊花賞でシンボリルドルフ以来となる無敗の3冠制覇に挑戦。
ところが一週目の直線を迎えるところで馬が勝負所と勘違いしたのか猛然と進出しようと折り合いを欠きながらのレースに。
向こう正面では落ち着きを取り戻したディープインパクトは絶妙な騎乗を見せていた横山典弘騎乗のアドマイヤジャパンを最後にきっちり交わし去って優勝し、史上2頭目の無敗でのクラシック3冠を達成。
しかし、無敗の連勝劇はここまででした。
続く有馬記念、思わぬ先行策を取ったハーツクライを捉えることが出来ずに2着に敗れることになります。
4歳になり、阪神大賞典を楽勝して挑んだ春の天皇賞では、これ以上ないというくらいほぼ完璧な騎乗を見せた横山典弘騎乗のリンカーンを有無を言わせぬ末脚で突き放し、ここも楽勝。
宝塚記念も制したディープインパクトは満を持して凱旋門賞を制すべくフランスへと遠征。
凱旋門賞では現地フランスですら「今回ばかりは勝たれても仕方ない」という評価がなされる中で出走。
ところがディープインパクトはいつもの後方待機策ではなく前に。
直線ではいつものような爆発的な末脚が繰り出されることはなく、レイルリンクの前に3番手で入線。
加えてレース後になって体調が思わしくなかった為に使われた薬が元で禁止薬物が検出されたことが明らかになり、失格に。
失意の帰国となった陣営でしたが、ディープインパクトはジャパンカップへと向かうことに。
期待と不安が入り混じる中でジャパンカップへと出走したディープインパクトでしたが、終わってみれば危なげなく完勝。
ラストランとなった次走の有馬記念では前年のようなこともなく宙を舞うような末脚をここでも炸裂させて楽勝し、輝かしい実績を残して種牡馬入りすることに。
名競走馬は必ずしも名種牡馬にあらずとはよく言われていて90年代日本最強との評価もなされるナリタブライアンですら重賞勝ち馬の1頭すら出せずにこの世を去っていたりもしていたのですが、ディープインパクトの産駒達は初年度から2歳リーディングサイアーに輝く活躍を見せ、翌年にはマルセリーナ、リアルインパクト、ジョワドヴィーヴルがG1を制し、僅か2世代だけでリーディングサイアーランキング2位になるなど華々しい種牡馬デビューを飾ることに。
その後の産駒達の活躍振りも凄まじく、G1で7勝を挙げた名牝ジェンティルドンナ、ディープブリランテ、キズナ、マカヒキ、ワグネリアンといった日本ダービー馬達を出しており、国外で走った産駒からもビューティーパーラーがフランス1000ギニーを、スタディオブマンがフランスダービーを、サクソンウォリアーがイギリス2000ギニーを制するなど活躍。
海外遠征で勝利を挙げた産駒もエイシンヒカリやヴィブロス、リアルスティール、リアルインパクトといった馬達が出るなど、種牡馬としても父サンデーサイレンスに引けを
取らない程の活躍を見せており、歴史にその名を刻んでいます。
産駒は全般に瞬発力に長けている馬が多く、芝に適性を持つ馬が大多数を占めているようです。
距離的にはマイルからクラシックディスタンスで活躍を見せることが多く、1200mまでしか走れないようなスプリンターや2400mでも足りないようなステイヤーという極端なタイプはあまりいないようです。
では、ここからは産駒の傾向について見ていくことにしましょう。
ディープインパクト産駒ー距離適性・芝
流石にディープインパクト、素晴らしい数字が並んでいます。
スプリントカテゴリーでも10%を超える勝率を残しており、十分に優れた成績ではあるのですが、1400mを超えてくるとその複勝率は35%を超えてきているように驚異的なハイアベレージを残しています。
今の日本競馬は芝中距離のレベルが世界的に見ても非常に高い水準となっており、このカテゴリーに於いては世界的に見ても最高クラスの種牡馬であると言っていいかと思います。
一方、2500mを超えるような長距離についてはその数字は落ちてしまっており、生粋のステイヤータイプはあまり多くないことも示しています。
基本的にオールマイティーではあるものの、ベストは前述していたようにマイルからクラシックディスタンス、という認識でいいのではないでしょうか。
もちろんスプリント戦や長距離戦でも軽視出来るような数字ではないので、きちんと各馬の適性などは見極める必要はありますね。
では、あまり得意とされていないダートではどうでしょうか。
ディープインパクト産駒ー距離適性・ダート
出走数自体が芝の2割程度しかないことにもディープインパクト産駒達の芝適性の高さが伺えるのですが、その成績に於いても然りで複勝率を見てみても明らかに芝よりも成績を落としてしまっています。
1700mを超える中距離の方が成績は優れており、芝には及ばないまでも一般的に見るならまずまずの数字を残してきています。
ただ、全体的に見てみても回収率もそう良くはなく、ダートに関してはさして強調出来る程の成績ではありませんね。
やはり芝でこそ、といったところでしょうか。
では馬場が悪化した時にはどうなのか見てみましょう。
ディープインパクト産駒ー馬場状態別成績・芝
この表からも最も成績が優れているのは良馬場であることがわかりますが、馬場が悪化した時に大幅にパフォーマンスを下げているわけでもないこともわかります。
基本的に瞬発力に優れている種牡馬だけに斬れが生きる馬場の方が良い、というのは一般的な見解と一致しているとは思いますが、意外と馬場悪化時に人気が下がるようなこともないというデータもあり(良馬場時の平均単勝オッズ21.6倍、稍重時の平均単勝オッズ23.0倍、重馬場時の平均単勝オッズ18.4倍)、結果的に回収率は良馬場時と比較すると幾分下がっています。
ではダートではどうでしょうか。
ディープインパクト産駒ー馬場状態別成績・ダート
スピードと瞬発力に長けたイメージだけに脚抜きの良い馬場の方が持ち味を生かせるのか、とも思われそうなのですが、実際にはそれほどでもなく、複勝率を見る限り大差ない成績となっています。
このデータを見る限り、ダートに関しては馬場状態に関してはあまり大きな影響はないと見てもいいのかもしれませんね。
では続いて得意コースを見てみましょう。
ディープインパクト産駒ー得意コース
ここでは出走回数100回というフィルタリングを行っていますが、上位の4コースは全て京都芝コースとなっており、その複勝率は驚異の40%超えとなっています。
京都の軽く、スピードが出やすい馬場との相性が非常に良いことが見て取れるデータとなっています。
また、この表には一部しか出てきていませんが、阪神競馬場の芝コースも好成績を残す傾向が出ています。
その一方で成績が芳しくないのは東京ダート1600mでその複勝率は17.4%に留まります。
面白いのは福島で、芝1800mは37.8%となかなかの複勝率なのですが、2000mとなると27.6%と、10%も落ち込んでしまっています。
ディープインパクト産駒ー母の父別成績
アンブライドルドがトップ。
ワグネリアンなどで知られるキングカメハメハは2位で45.6%もの複勝率を誇ります。
意外に健闘しているのはスマートレイアーを出したホワイトマズルと5位のエクスチェンジルート。
エクスチェンジルート?って感じですが、際立つ実績馬はいないながらも6頭いる内の3頭が4勝以上を挙げてランクインしています。
比較的多いパターンではストームキャットが複勝率39.8%、フレンチデピュティが複勝率37.7%、トニービンが複勝率30.7%、ブライアンズタイムが28.1%となっています。
と、いつもならここで終わりですが、日本ナンバー1サイアーということでついでに騎手との相性もちょっと見てみましょう。
ディープインパクト産駒ー騎手別成績
まあ、当たり前ではありますがリーディング上位の騎手の名がズラリと並んでいます。
そりゃ、彼らが有力馬に乗る機会が多いのですから。
ただ、上位6人に関しては回収率に於いても悪くなく、特にC.デムーロに関しては111%と特筆すべき数値を残していますね。
そんな日本競馬史に残る実績を積み重ねてきたディープインパクト。
毎年の様に200頭を超える種付けを行ってきたこの馬なのですが、体調が思わしくないことから今年の種付けは僅か20数頭程度で中止しています。
もう17歳となり、父サンデーサイレンスの享年を超えており、決して若くはない年齢になっています。
数十年に一度現れるかという名馬だけにまだまだ元気に頑張ってもらいたいところです。