うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

ディアドラの挑戦

先日、イギリスのG1、プリンスオブウェールズステークスに出走、6着となっていたディアドラが、このまま現地の滞在を延長し、8月1日にグッドウッド競馬場で行われる牝馬限定G1、ナッソーステークス(芝1980m)への出走を目指すことが明らかになりました。
ディアドラは中山記念出走後、ドバイターフ、クイーンエリザベス2世カップ、プリンスオブウェールズステークスと国外のレースを走り続けており、このナッソーステークスは転戦4戦目となります。

ディアドラを管理しているのは橋田満調教師。
これまでにサイレンススズカやアドマイヤグルーヴ、アドマイヤコジーン、アドマイヤマックスなどを管理しており、栗東でも有数の実績を残す厩舎として知られています。

馬主は森田藤治氏。
大阪で肉を販売する会社を経営されていた方で、馬主としてはいわゆる「大物馬主」ではなく、年に数勝しているくらいの比較的小規模な馬主さんです。

ディアドラの海外戦は既に5回を数えており、勝ちこそないものの、香港カップで2着、ドバイターフで3、4着するなどの活躍を見せています。


まず、この一連の海外遠征についてですが、個人馬主だからこそ出来るレース選択だな、という印象ですね。
ドバイミーティングなどは招待競走でもあり、遠征費用の一部を主催者側で負担してくれ、賞金も非常に高いですから比較的遠征はしやすいレースではあるのですが、先日のプリンスオブウェールズステークスや次走のナッソーステークスなどはそうではありません。
遠征に伴う費用は当然ながら馬主が負担することになるのですが、1度の海外遠征を行うに当たっては差はあるものの一般には1000万円程は掛かると言われています。
プリンスオブウェールズステークスやナッソーステークスはG1とは言え、賞金額自体は日本よりだいぶ少ないもので、遠征自体が赤字になる公算が非常に高くなります。

クラブ馬主の場合は会員に遠征費用の負担を求めることになるため、このような赤字になる公算が高い遠征は多くの会員の同意は得られないため、事実上出来ません。
一方、個人馬主の場合は本人の意向1つですから、赤字になるリスクを承知であれば、こうした挑戦が出来ることとなります。
とは言え、そうなると個人で数千万円にも及ぶ可能性のある海外転戦というのはそうそう簡単に出来るものではないですね。
「夢」なくしては出来ない挑戦だと言えます。

ディアドラ自身は秋華賞を勝つなどしており、既に4億円を超える賞金を森田氏にもたらしており、十分過ぎる程に稼いでいるという側面はあるのですが、それでも国内で出走していたなら賞金が得られる可能性の高い馬を赤字になるリスクの高いレースに挑ませるというのは簡単に出来ることではありません。
個人的には森田氏のこの夢に向かう姿勢は非常に好感が持てます。

また、費用の面だけでなく、管理する橋田厩舎としてもこうした海外転戦は大変な負担をすることになります。
様々な手配は勿論のこと、人員的にも少なくはない負担が生じます。
厩舎は道楽ではなく、ビジネスですから利益が見込みにくいプランに対して手間隙を掛けること自体が要一出来るものではないだけに馬主の意向とは言え、簡単に「行きましょう」と言えないものです。
こちらも素晴らしいチャレンジングスピリッツであると評価したいところです。

ネットの掲示板などを見ていると、この遠征については賛否両論のようで、「海外転戦は馬が可哀想」とか「国内で出走するべきだ」との意見がある一方で、「頑張れ」、「素晴らしい挑戦」との意見も少なからず見られます。
個人的には前述したようにそのチャレンジングスピリッツには好感が持てますし、レースの選定についてもむやみにキングジョージだ、凱旋門賞だというのではなく、馬の適性が高いのではと感じさせる距離や条件を精査している印象は少なからず感じられていて良いと思います。
穿った意見としては「ノーザン」の使い分けに忖度している、だと言うものもありますが、いくらなんでも単独のオーナーであれば、そんなことはないでしょう。
ちょっと不思議なのは前述した「可哀想な使い方」だという意見。
正直、それほど無茶な使い方だとは思えません。
レースの間隔はある程度ありますし、輸送についても国内の遠征と比較して際立って長時間でもありません。
国内の遠征でも場合に寄っては半日も掛けて輸送が行われるのは普通のことであり、それと比較して明らかに多大な負担を強いているわけではないようです。
そもそも欧州の馬は普通に国外への遠征を行っており、言ってみれば普通のローテーションとも言えるように思います。
ドバイに経って以降、香港、イギリスと日本に戻ることなく遠征していますから日本を出発してからの長距離輸送は3回。
個人的な見解としては過剰な負担ではないと思います。

色々と書いてきましたが、私個人としてはこの遠征は素直に応援したいと思います。
少なくはないリスクを乗り越えて栄冠を手に帰国することが出来ればいいですね。