うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

ジャパンカップの未来は

1981年に「世界に通用する強い馬作り」をキーワードに創設されたジャパンカップ。

以来、38回の歴史を積み重ね、2019年で39回目を迎えることになるのですが、この39回の歴史の中で今年、遂に国外からの参戦馬が1頭もいなくなるという事態となりました。

 

80年代中盤以降から90年代後半に掛けては凱旋門賞やキングジョージなど世界的な実績を持つ名馬達の参戦も少なくなかったジャパンカップでしたが、90年代後半以降に日本馬の実力が向上して、当たり前のように国外の実績馬を打ち破ってくることが続いてくるのに伴い、徐々にそうしたビッグネームの来日が少なくなってきました。

 

2000年代後半以降は毎年の様にJRAが参戦馬の誘致に苦労している様子が見て取れ、出走してきた馬はまるで当然のように掲示板にも乗れずに敗れ去るという状況が続いていました。

 

そして2019年、登録していた外国馬の全てが出走回避を表明、長い歴史を持つジャパンカップ初の日本馬のみの開催となることが決まりました。

 

随分と前から言われていた「ジャパンカップの意義」がいよいよ本格的に問われることになります。

 

ジャパンカップの意義とは…?

かつてほぼ鎖国状態だった日本競馬。

この状況を打破し、世界に通用する馬作りを目指してジャパンカップは創設されました。

初回開催時にとても一流とは言えないクラスのメアジードーツに日本のトップクラスの馬達がいともあっさり敗れ去り、世界とのレベル差を見せつけられるところから始まったジャパンカップ。

生産、育成、調教、医療など様々な面で世界に学び、それを超えるべく工夫や試行錯誤を繰り返していった関係者達の努力はその10年程で形となって表れ出し、90年代にトウカイテイオー、レガシーワールド、マーベラスクラウン、エルコンドルパサー、スペシャルウィークと5頭が勝利を挙げるなど次々に世界的な実績を持つ馬達を相手に互角以上の戦いを見せるようになります。

2000年以降は殆ど日本馬の独壇場となり、それ以降の20年で18回までもが日本馬が勝利。

この頃になると日本馬が世界各国のG1レースで勝利を収めることも少なくなくなり、ジャパンカップの設立当初目指していた「世界に通用する馬作り」は現実のものとなったと言って良い状況となりました。

 

その一方でジャパンカップは賞金増額の甲斐もさほどなく、参戦する外国馬は質量ともに目に見えて落ちていきました。

 

2019年現在、既に40年前に日本競馬が目指していた領域には達したと言える状況となり、その目的で創設されたジャパンカップはその意味では当初の役割は十分に果たしたと言っていいでしょう。

 

近年では日本馬のクラシックディスタンスに於けるチャンピオン決定戦的な色合いが強くなってきています。

 

が、2019年の出走馬に目を向けるとわかるのですが、日本最強と目されるアーモンドアイは香港へと向かう方針が発表され、宝塚記念を圧勝し、コックスプレートをも制したリスグラシューの姿もありません。凱旋門賞に挑んだブラストワンピースもフィエールマンもキセキも参戦しないことが明らかになっていますし、3歳のクラシックホース達は全て出走してきません。

 

ワグネリアン、スワーヴリチャード、レイデオロ、シュヴァルグランなどが出走してきますからG1としての格は十分にあるのですが、「日本最強のクラシックディスタンスホース決定戦」と言い切るには物足りない印象を与えているのも事実です。

 

このレースの意義を本気で見つめ直し、新たなステージとなるべき時は来てしまったと言わざるを得ません。

 

ジャパンカップ改革案

勿論、この状況は主催者であるJRAは理解しているものと思われます。

ただ、ここでは1ファンの視点から今後のジャパンカップについて意見を述べていきます。

 

1.ジャパンカップ廃止

思い切った策ではありますが、こうした意見が少なくないのは事実です。

ジャパンカップを思い切ってなくしてしまう事で年末の有馬記念をより充実させることに繋がるという方策です。

ただ、仮にジャパンカップを廃止したところで香港国際競走への有力馬流出は避けることは出来ないのではないかと見ています。

加えて決して売り上げの少なくないジャパンカップをなくしてしまっても、それを補えるだけの売り上げを有馬記念に上積みできる可能性は低いでしょう。

故にJRAがそうした方向に舵を切る可能性は現実的にはほぼないと言って良いでしょう。

 

2.有馬記念との統合

かつて競馬マンガみどりのマキバオーの作品内ではこの案が現実となっていました。

ジャパンカップに超一流馬が集結しにくい理由の1つがローテーションの厳しさにあります。1990年前後とは違い、近年では外厩が普及したこともあり、各馬とも休み明けでも十分に仕上がった状態で出走してきています。1戦の負荷が少なくなくなっているため、一流馬達はゆとりのあるローテーションを組む傾向が強くなっています。

故に現状の11月最終週の東京開催では天皇賞からの参戦ケースが減ってきている以上、天皇賞からの参戦を狙うのならば、天皇賞との間隔を空けることが重要になってきます。

有馬記念にジャパンカップを吸収させる形ならば天皇賞との間隔は7週と十分に空く事になります。その点に於いては解消されることになります。

ただ、中山芝2500mはトリッキーなコースであり、年末の開催だけ馬場も荒れていることが少なくないという課題もあります。

また、これでは外国馬の誘致問題は全く解決することはないでしょう。

 

3.馬場の大幅改装

競馬ファンにもっとも多く見られる意見がこれかもしれません。

凱旋門賞に勝ちたいんだったら欧州の馬場に寄せた競馬場にするべきだ、ジャパンカップに外国馬を呼びたいのなら欧州の馬場に寄せた馬場にすべきだ、と。

90年代の頃からジャパンカップの為に来日した関係者の多くからは「馬場が硬過ぎる」との意見が何度となく聞かれていました。

確かに90年代の東京競馬場の芝馬場は諸外国と比較して高い硬度となっていました。

しかし、近年では馬場の改良も進んでおり、現在では東京競馬場の芝馬場の硬度は欧州の競馬場とほぼ同等の水準となっています。

実は硬くはないのです。

ただ、残念ながらそれが十分に周知されていません。

近年の芝馬場で早いタイムが出るのは馬場の凹凸を限りなく平坦化し、芝の改良により根が切れにくく馬場が掘り返されて荒れることが少なくなっていることに依るものであり、今では競走馬の故障率もダートと同等以下にまで抑えられています。

しかし、日本の競馬ファンですらその多くが今でも日本の馬場はコンクリートのように硬くしているから早いタイムが出ているものと思い込んでいます。

国内のファンですらそうなのですから外国の関係者にも的確に理解されていない可能性は高いですね。

JRAは一般に向けてどのような意図を持って、馬場を作っているのかきちんと周知させるという意味では不十分であると思います。

また、今の芝馬場は日本の気候を考慮し、芝の改良や路盤を築いてきたものです。

そもそも日本の高温多湿な気候では欧州と同じ馬場は作れないのです。

恐らくJRAは日本の気候に合わせ、かつ競馬がスムーズに開催出来る事を目指した馬場作りを意識しているものと思われます。

故に欧州馬を来日させるために、凱旋門賞やキングジョージで勝つためにその方針を貫くのか曲げてでも欧州競馬に近づけていくべきなのかという選択になってきます。

仮に欧州競馬に近付けて来日を促す方向に転換するのならば、問題は山積みです。

欧州と同じ芝は東京では生育することはほぼ不可能です。そのため、芝の改良や路盤の改良、高低差など根底から競馬場や馬場を作り替えていかなくてはなりません。

ファンからは欧州の馬場にしろだとかさも簡単かのように語る意見も少なくはありませんが、そう容易なものではないということは明らかです。

5年や10年で出来る事ではないでしょう。

一般に思われいている程は現実的ではないことが事実です。

 

4.番組改編

個人的にはこれが最も現実的な方策だと認識しています。

馬場の欧州化が難しい以上、欧州馬を日本の競馬場に呼び込むことは容易なことではありません。

仮にそれが出来たとしてもだいぶ先の話になってきます。

ジャパンカップは日本のクラシックディスタンス最高峰の一戦にしていくのが妥当と考えます。

そのためには現状の天皇賞→ジャパンカップ→有馬記念間の中3週続きの日程は今の日本競馬のトップホースのローテーション的に適切だとは言えない状況となっています。

9月の中山開催を10月の東京開催と入れ替え、9月最終開催に天皇賞を行い、11月のジャパンカップは2、3週前倒しで開催することで天皇賞、ジャパンカップ、有馬記念間の間隔はだいぶ開くことになります。

秋華賞、菊花賞、エリザベス女王杯の開催についても前倒しが必要となってくるかと思います。

こちらも十分な間隔を確保するために秋華賞は9月末に開催、菊花賞も10月開幕週の開催、エリザベス女王杯も10月末頃の開催が良いのではないかと考えます。

また、オールカマーは天皇賞の前哨戦としての意味合いは薄れているだけにこれも移設が求められます。

秋華賞の開催競馬場を移転するならばスプリンターズステークスもそれに合わせて移設した方が良いかもしれません。

勿論、この番組にしてみても香港への流出はあるでしょうし、凱旋門賞参戦馬のジャパンカップ誘致は難しいものとなります。

 

 

個人的総括

現状を鑑みるにジャパンカップが30年前のように国際色豊かなメンバーが揃い、日本を代表する名馬達がそれらと戦う、そんなレース像はほぼ不可能であると言ってもいいかと思います。

仮に賞金を倍にしてみても欧州やアメリカのトップホースは容易に参戦しては来れないと思われる状況です。

それほどまでに東京競馬場の芝馬場に於いて日本馬は強くなっています。

アーモンドアイをこの舞台で負かせるような馬は世界のどこにもいないかもしれません。

 

昔のジャパンカップはもう戻っては来ないのです。

 

今、出来る事はジャパンカップを魅力あるレースに作りあげる事ではないでしょうか。

 

勿論、JRAの関係者達はジャパンカップに、チャンピオンズカップやマイルチャンピオンシップやエリザベス女王杯なども含めて外国の有力馬を参戦させるべく努力を続けているでしょう。

 

出来ること、やるべきことは外国馬を誘致するなら可能な範囲で外国馬の関係者達が求めるものを実現し、それを世界に十分に周知させることでしょう。

日本馬についても時代と共に使い方が変わってきている以上はそれに番組を合わせるなどの工夫はすべき時に来ているものと思います。

 

ここまでJRAに対して理解を示すような書き方もしてきていましたが、ジャパンカップが来日馬0となり、アーモンドアイを始めとしてリスグラシュー、ブラストワンピース、フィエールマン、キズナ、サートゥルナーリアらが故障もないのにこの舞台にいないのは紛れもない事実です。

何とか今の状況を打破し、魅力あるレースを行ってもらいたいところです。