うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

2020年サウジカップ開催を終えて

突如として現れた世界最高賞金額レース、サウジカップ

ドバイワールドカップデーなどと同じように複数の高額賞金レースなどを2日間に集約して行うというスタイルのビッグイベントが新たに誕生しました。

 

これまでもサウジアラビアでは競馬は行われてはいたのですが、世界的にはそれほど注目度は高くはなく、同国の調教馬が世界的大レースで活躍を見せたりすることもほぼありませんでした。

 

きっかけは90年代にドバイワールドカップの諸競走が成功を収め、世界的にも大きな注目を集めることが出来たことでしょう。

この頃、ドバイは石油産業に依存してしまっている状況の中で、新たな産業として観光にスポットを当てる方針を取り、競馬に於けるビッグイベントの創設もその施策の一つとして行われたのでした。

 

それから約25年。

ドバイは世界各地の富豪が訪れる一大観光都市としても大きく成長を遂げています。

 

その姿は他の中東諸国に対しての影響も少なくなく、今回のサウジカップ開催の創設も恐らく同様の目論見の中で行われることになったものと思われます。

 

ただ、現状では総賞金額300万ドルクラスのレースは既に世界各国に存在しています。

日本のジャパンカップは勿論、ドバイワールドカップ諸競走、ブリーダーズカップ諸競走、凱旋門賞メルボルンカップ、ペガサスワールドカップ、ジエベレスト、香港国際競走などいくつもの高額賞金レースが行われています。

 

そこで思い切った策に出たのがサウジカップで、総賞金額はメインのサウジカップで驚愕の2000万ドル。

これを欧州のオフシーズンの時期でもあり、ドバイワールドカップの約1か月前に行うことで、ビッグネームの誘致を狙ってきています。

 

 

その強烈な賞金の影響は大きく、まだ国際グレードのない同競走にアメリカを中心に強烈なレベルの馬達が集うことになりました。

 

日本からも諸競走に5頭が海を渡って出走しています。

 

 

その5頭の先陣を切る形で芝2100mで行われたモハメドユスフナギモーターズカップに出走したディアドラ。

既に秋華賞ナッソーステークスとG1を2勝。他にも世界各国のG1で何度となく好走を繰り返してきた名牝でブックメーカーのオッズでも人気を集めていました。

 

レースはこのディアドラを各馬が一団となって厳しくマークする展開。

直線入口付近で馬群がバラけた瞬間にディアドラとO・マーフィーが素早く馬群の中から外に持ち出して逃げ馬を追撃する態勢に。

ただ、出遅れて後方待機から大外に持ち出した人気薄のポートライオンズが強襲。

一気に先頭に並ぶもディアドラが差し返そうともう一脚伸ばしたものの、僅かに届かず。差し返せたのはゴール板を過ぎた後となり、2着となりました。

同馬はこの後、日本には帰らずにニューマーケットへと戻る見込み。

 

続いて登場したのはダート1600mで行われたサンバサウジダービーへと出走したフルフラット。

まだ1勝クラスの同馬ですが、昨秋には果敢にアメリカへ遠征し、BCジュベナイルに出走して5着と健闘していました。

好位追走から抜群の手応えで早々と先頭に立つや、そのまま後続の追撃を最後まで押し切って2馬身1/4差で優勝。

悲願のケンタッキーダービーへ向けて大きな一歩を進めることになりました。

 

続いてはフルフラットと共に遠征し、調教でもパートナーを組んでいたマテラスカイがダート1200mのサウジアカップに出走。

外の枠を引いていたマテラスカイ。このコースはスタート後間もなくコーナーを迎えるため、鞍上の武騎手はマテラスカイの爆発的なスピードを生かして強引にダッシュを利かせて一気に先頭に。

飛ばしに飛ばすマテラスカイのスピードに全馬付いていくことが出来ず、直線に向かう頃にはスプリント戦とは思えない程の大きな差をつけての単騎逃げ状態に。

大楽勝かと思われるも、ラスト100mあたりで急激に失速。ゴールを目前に僅かにニューヨークセントラルに捉えられての2着に終わりました。

 

メインのサウジカップ(ダート1800m)には日本からはクリソベリルとゴールドドリームの2頭が出走。

ここにはマキシマムセキュリティ、ムーチョグスト、マッキンジー、ミッドナイトビズーなどアメリカの最強クラスの馬達が出走。

いきなりBCクラシックかと思わせる程の超豪華メンバーがアメリカより出走。

他国からもベンバトルやマジックワンドなども出走し、初回開催ながらドバイワールドカップと同等かそれ以上とも思われる超強力メンバーとなっています。

人気のマキシマムセキュリティがレースを引っ張っていく中で日本の2頭はスタートでそれほどダッシュがつかずに中団後方よりを追走する苦しい展開。

 

直線に向いてゴールドドリームが上位を伺う位置で脚を伸ばすもゴール手前では脚を使い切り失速して6着。クリソベリルは終始、外を回されて大外からジリジリと脚を伸ばすも7着まで。

勝ったのはマキシマムセキュリティでした。

 

 

では、このキングアブドゥルアジーズ競馬場について感じたことを触れていきましょう。

まずディアドラが参戦した芝のレース。

2100mで勝ちタイムが2:11.4でした。

仮に東京競馬場で同じ距離のG1が行われたとするなら予測されるタイムは大体、2:03~5くらいになるんじゃないかと思います。

このレースがそれほどペースが上がらなかったこと、計測方法の違いも含めて見てみると4、5秒程度の差といったところでしょうか。

 

日本の競馬場程は早くはないけどイギリスやアイルランドほどタフなコースではない、といったところでしょうか。

 

ただ、このコースは日本と同様にコースの起伏はそれほど大きくないので、芝そのものは日本よりもかなりパワーを求められるものだったかと思っています。

ドバイや香港よりややタフな印象を受けました。

 

続いてダートコース。

メインのサウジカップの勝ちタイムは1:50.58。

日本のダート1800mでも同じようなタイムが出そうにも見えるのですが、正直言ってJRAのダートよりタフな馬場だったように思います。

ゴールドドリームとクリソベリルはここから1秒程遅れての入線。

時計的には地方競馬のそれに近い水準ですね。

マテラスカイのタイムが1:11.7程度。

同馬についてもJRAのダートならもう少し早い時計を出してきそうですし、フルフラットのタイムを見ても日本のものより遅い印象が持たれます。

 

日本の砂馬場とは違い、土に近い砂質でかつ粘土質であり、蹴り上げたダートが砂埃を上げたりはあまりしないようです。

そのため、砂を被ってダメージを受けてしまうことも少なく、グリップも日本より効きやすい馬場であったように感じました。

ただ、その一方で馬場自体は決して浅くはないようにも感じられました。

 

イメージされたのはアメリカ、チャーチルダウンズ競馬場のダートコースでしょうか。

ケンタッキーダービーが行われているコースですね。

 

思えば、ドバイのナドアルシバ競馬場の開設時に敷かれたダートはチャーチルダウンズのダートを参考にし、それを模したものが作られていました。

少なからずアメリカの強豪馬の遠征を促す意図もあるものと思われますね。

 

ただ、個人的見解ではありますが、チャーチルダウンズのそれよりもタフな馬場であったように思いますね。

 

 

今回の開催を終えてみて、感じられたのは北米から強力な馬達の誘致には大成功した一方で、芝のレースではそれほど高い水準の馬は集まり切らなかった印象が拭えません。

まあ、芝の格レースに於いては賞金額もそれほど高いものではありませんでしたから仕方のないところでもあったでしょう。

この点についてはテコ入れを行っていかなければ欧州、アジアからの遠征馬は十分に集まってこないように感じられます。

 

逆にこの点が上手く噛み合うようになってくると1か月後のドバイワールドカップデーと連動させる形で強力な出走馬が集まることも望めるかと思います。

 

あとは国際情勢ですかね。

UAEと比べて政情はやや不安定なのがサウジアラビアでもあります。

これは、競馬関係者レベルでどうにかなるものではないのですが。

 

 

このビッグイベントが今後、どのように変貌していくかはある意味、概ね成功と言える初回開催を終え、次開催に向かってどれだけステップアップさせていけるかでしょうか。