2020年 天皇賞(春)回顧
毎週、薄氷を踏むような中で行われている中央競馬開催。
そんな天皇賞を制したのは昨年の覇者フィエールマンでした。
これでフィエールマンは3000m以上のG1のみで3勝目。
歴史に残る名ステイヤーとしてその名を長きに渡って残すことになりそうです。
では、その天皇賞を振り返ってみましょう。
天皇賞(春)総括
降雨による馬場悪化が懸念されていましたが、雨が降り出したのはほぼレースと同時刻となり、馬場の悪化は避けられたこのレース。
古馬の長距離G1だけあって各馬ともスムーズにゲートイン。
大きく出遅れる馬はなく、スタートに不安を感じさせていたキセキも問題なく発馬を決める。
まずハナに立ったのはダンビュライト。
それにスティッフェリオが続き、キセキはこの2頭を前にしての3番手での追走。
ユーキャンスマイルは6、7番手に付け、大外枠を引いたフィエールマンは前にはいかず後方寄りの位置に控えての序盤。
ほぼ同じ位置にミッキースワロー、エタリオウも追走。
ホームストレッチへと馬群が入り、序盤の1000m通過タイムは1:03.0。
このあたりでキセキが行きたがる素振りを強く見せ、鞍上の武騎手は抑え込むことを諦め、馬の行く気に任せてペースアップし、一気に先頭へと躍り出る。
ペースを上げたキセキはダンビュライトに3馬身程、3番手で追走のスティッフェリオには7馬身程のリードを取ってバックストレッチへ。
後続馬達はこれを追い掛けることなく、馬群は縦長に広がりを見せる。
3コーナー手前、各馬とも前との差を縮めつつあるもキセキ、ダンビュライトらとは依然差のある状況。
このあたりでミッキースワローが早めに仕掛け、フィエールマンを外から交わしていき、後方の各馬ともこれに呼応するようにペースを上げるも、フィエールマンはまだ動きを見せないまま。
馬群が3コーナーから4コーナーへと差し掛かっても依然として先頭はリードを保ったままのキセキ。
直線に向いてもキセキはリードを残したまま、ダンビュライトはここで脱落。
人気のフィエールマンは4コーナーを回り切るや進路を外に持ち出し追撃態勢に。
ラスト200mの付近でキセキの脚色が怪しくなり、ジワジワを伸びてきたスティッフェリオがこれを捉えて先頭に。
内からはユーキャンスマイル、外からミッキースワロー、フィエールマンが接近。
ゴールを目前にしてもスティッフェリオとフィエールマンの脚は止まることなく、ユーキャンスマイル、ミッキースワローはここで前2頭についていけず。
粘りに粘ったスティッフェリオに外からフィエールマンがジワジワと接近し、最後は鼻を並べるようにしてゴール。
首の上げ下げで僅かにフィエールマンがこの勝負を制し、スティッフェリオは僅かな差で大金星を取り逃がすことに。
まずは200m毎のラップを見てみましょう。
13.2-12.4-12.4-12.5-12.5(序盤1000m 1:03.0)
12.0-11.6-12.5-12.1-12.2ー12.7(中盤1200m 1:13.1)
12.5-11.9-11.9-11.9-12.2(終盤1000m 1:00.4)
勝ち時計 3:16.5
やはりレースを作ったのはキセキでしょう。
松若騎手騎乗のダンビュライトが先頭で作ったペースは計ったように各ラップを12.5秒程度で揃えてのもの。ダンビュライトとしては絶妙のラップを刻んでいたのですが、これに痺れを切らしたキセキ。もう我慢ならないとばかりに行きたがったことで武騎手は抑えることをやめて馬の行く気に任せて一旦ガス抜きをする策に。
2ハロン程ペースを上げた後、ペースを落とそうとするもキセキのペースはなかなか落ちず、各馬が息を付きたい場面のこの付近に於いて容易に息を付かせないペースに。
結果、キセキはラスト1ハロンを残して止まってしまうことになります。
キセキは3コーナーの前後で12秒台後半のラップとなるのですが、ここで他の各馬は差を詰めるためにもある程度仕掛けざるを得ない状況となります。
結果的に多くの馬達は1000m前後の超ロングスパートに挑むことになります。
勝ったフィエールマンはここで焦らず仕掛けを僅かに遅らせているのですが、これが後に効いてきます。
上手かったのは北村友一騎手のスティッフェリオ。
前を深追いすることなく後続の馬達の動向を図りながら巧みなペースメイクをしており、直線まで無理に前を追い掛けずに仕掛けのタイミングを計っています。
この両馬は最後までしっかり脚を残せており、ラスト1ハロンは12秒程度の脚を使っており、道中で脚を使わされた馬はこの付近で止まってしまっています。
では上位各馬について個別に触れてみましょう。
天皇賞(春) 上位各馬寸評
1着 フィエールマン
大外枠が懸念されていた同馬でしたがルメール騎手が落ち着いた騎乗で巧みにエスコート出来ました。着差は大きなものではありませんでしたが、それ以上の強さを感じさせる走りを見せています。
3コーナー手前でミッキースワローが勝ちに行くべく早めに仕掛け、各馬もそれに合わせてペースを上げるのですが、ここでルメールはこれにすぐついては行きませんでした。慌てずとも十分に届くという自信もあったように見えます。
斬れる脚はないため、ジワジワとしか伸びず最後は際どい競り合いになるのですが、ゴール前でもその脚色はさほど衰えず、余力には違いがはっきりあったように思われます。
間違いなく近年最強クラスのステイヤーであるといって良いでしょう。
2着 スティッフェリオ
結論から言えば中距離メインで使われてきてはいましたが、本質はステイヤーだったのでしょう。ただ北村騎手の乗り方は中距離馬のそれではなく、ステイヤーがこのレースを勝つためのペースメイクだったように感じられます。中途半端にスタミナを温存することなく、このロングスパート戦で最大限の力を発揮させてきました。ゴール前でもバテておらず寸前までフィエールマンの追撃を抑えています。母の父であるムトトがこうしたタイプの馬でした。
3着 ミッキースワロー
この馬もまた中距離を主に使われてきてはいましたが、血統的には母系には欧州系の持久力のある血を持っており、長距離適性の裏付けがあるものを持っていました。横山騎手もそれをわかっていたのか早めのスパートで勝ちに行く競馬を試みています。ラスト100mを切ったあたりで前2頭に振り切られてしまうのですが、このタフなロングスパート戦でここまで走れるのは十分な持久力なくしては不可能。やはりスタミナ能力は高いと見るべきでしょう。
4着 ユーキャンスマイル
ロスの少ない位置取りを意識しながらレースの流れに乗せてソツのないレースをしているのですが、最後は昨年と同様に前2頭に離されました。3000m級のレースでも十分に戦える力はあるでしょうが、いわゆるヘヴィステイヤーではないと見ています。以前よりも力はつけてはいますが現時点ではここまででしょうか。
能力自体はG1に届いても不思議ではないので、宝塚記念あたりではチャンスもあるかもしれません。
5着 トーセンカンビーナ
血統的にはそれほどスタミナ指向は強くなかっただけにそれほど注視はしていませんでしたが、まずまずの脚は使ってきています。ステイヤーというよりはクラシックディスタンスホースではないかと見ています。ただ成長振りが著しく、前走、今回と大幅な相手強化にも屈しなかったように感じられます。京都大賞典やアルゼンチン共和国杯あたりは狙いどころでしょうか。
私の予想スタイルは基本的には過去のデータを重視してのものなのですが、菊花賞や天皇賞(春)の場合などはそもそもの過去データが少なく、そうしたものがまともに機能しないんですよね。
よく「天皇賞(春)過去10年の…」といったデータを出して予想ファクターとする方はいるのですが、個人的はそういったサンプル数の少ないものを「データ」として扱いたくないんですよ。
故にこうした超長距離戦などは血統的な側面から見ていくスタイルになってくるんですよね。
今回は改めて血統に於ける影響力の高さを感じさせられる結果となったように思います。