2021年JRA賞
2021年のJRA賞が発表されています。
既に様々な媒体にて報道はされていますが、筆者の所感も含めて改めて触れてみることにしましょう。
年度代表馬・最優秀3歳牡馬
エフフォーリア
皐月賞を圧勝し、断然人気に推されたダービーこそ僅かハナ差でシャフリヤールに敗れますが、秋は菊花賞には出走せず古馬相手に天皇賞に出走、コントレイル、グランアレグリアと共に3強を形成。レースではその3強が抜け出す痺れる激戦となる中で先頭でゴールを駆け抜けたのはエフフォーリアでした。
更に有馬記念にも出走、前年覇者のクロノジェネシスらを相手にここでも力強く抜け出して優勝、3つ目のG1タイトルを手に2021年を終えることとなりました。
同馬の受賞については全く異存はありません。
クラシック3冠制覇にも匹敵する戦績、内容であり、最優秀3歳牡馬は勿論、年度代表馬に十分に相応しい走りを見せています。
2022年は大阪杯から宝塚記念のローテが有力視されています。
国内最強馬としての活躍に大きな期待が掛けられます。
最優秀2歳牡馬
ドウデュース
新馬戦、アイビーステークスを連勝し、3番人気に推された朝日杯フューチュリティステークスでは粘り込みを図ろうとする人気のセリフォスを差し切って無傷の3連勝。
これが評価されて最優秀2歳牡馬に選出されています。
奥手の血で知られるハーツクライの産駒ですが母父は早熟で知られるヴィンディケイションで、これからどう成長するかが楽しみな1頭です。
ホープフルステークスのG1昇格で毎年の様に語られるであろう同レースとの比較ですが、ホープフルステークスはキラーアビリティが勝利。
個人的には2021年については朝日杯の方がメンバー的に見て重賞上位馬の参戦も多く、レースの水準的に見てドウデュースの受賞は無難なところかと感じます。
正直に言うと2歳牡馬戦線についてはやや小粒な印象です。
最優秀2歳牝馬
サークルオブライフ
2戦目の未勝利戦を勝利、アルテミスステークスでは人気薄ながらもしぶとい末脚で連勝。暮れの阪神ジュベナイルフィリーズでは外から豪快な末脚を繰り出して優勝。
血統的にもマイルよりは距離伸びて真価を発揮しそうな馬でもあり、エピファネイア産駒からまた1頭、楽しみな馬が現れました。
同馬の最優秀2歳牝馬受賞については全く異存はありません。
他に同馬に匹敵するパフォーマンスを見せた馬はいませんし、勝ちっぷりも破った相手も文句はありません。
一瞬に斬れはそれほどでもない一方で長く脚を使い続けるタイプだけに極端な瞬発力勝負にならなければ容易に負かすことは難しいかと。
最優秀3歳牝馬
ソダシ
昨年の2歳女王。
ぶっつけで挑んだ桜花賞では早めのスパートで瞬発力で勝負する馬達を並ばせることなく完封して無傷の連勝を5に伸ばしてみせました。続くオークスでは人気に推されるも8着と完敗。
夏の札幌記念で始動。早めに先頭に立つ積極的なレースでこの後にBCフィリー&メアターフ、香港カップを連勝することになるラヴズオンリーユーの追撃を抑えて優勝。
秋華賞では人気になるもゲートに顔をぶつけた影響か良いところなく惨敗、ダートへと矛先を変えたチャンピオンズカップではハナを切って逃げるも大敗。
単純な実績という点に於いてはオークス馬ユーバーレーベン、秋華賞馬アカイトリノムスメと大差ないと言わざるを得ず、決して安定もしてはいなかったのですが、個人的には札幌記念でのラヴズオンリーユー撃破は評価したいところで、まあ受賞については妥当なところかと思います。
最優秀4歳以上牡馬
コントレイル
極悪馬場で行われた大阪杯ではレイパパレに離されての3着。以降は休養に充て、秋初戦に選んだのは天皇賞(秋)。万全とも言われる仕上げで1番人気で挑み、中段から上がり最速の33秒0の脚を繰り出すも3歳エフフォーリアには届かず2着。
ラストランとなるジャパンカップでは格の違いを見せるような末脚で2馬身差の完勝劇で3冠馬らしいポテンシャルを発揮して有終の美を飾っています。
古馬牡馬でJRAのG1を複数勝った馬はいませんでしたし、海外G1を含めても同馬と同等以上の活躍を見せた馬はいなかったことから、同馬の受賞は妥当なところでしょう。
どうしても歴代の3冠馬、特にシンボリルドルフ以降の馬と比較して見劣るような評価となってしまっている感は拭えないのですが、2、3、4歳とG1を制してJRA賞を受賞したのは同馬だけです。
最優秀4歳以上牝馬
ラヴズオンリーユー
京都記念を制してドバイシーマクラシックへと遠征、ミシュリフ、クロノジェネシスと激戦の末に3着。その後、直接転戦した香港、クイーンエリザベス2世カップでは後に香港ヴァーズ2勝目を挙げるグローリーヴェイズ、牝馬3冠のデアリングタクトを抑えて優勝。秋にはアメリカ、ブリーダーズカップフィリー&メアターフへと遠征し、馬群をこじ開けて抜け出して日本馬史上初となるブリーダーズカップ制覇の偉業を達成。
そのまま香港へ転戦、香港カップでも迫るヒシイグアスを競り落としてここでも優勝。
まるでゲームのような海外転戦をものともせずに年間G1、3勝という異次元とも思われる快挙を成し遂げました。
たられば、は意味のないことかもしれませんが仮にエフフォーリアが有馬記念で2着以下に敗れていたなら間違いなく年度代表馬に相応しいのはこの馬だったでしょう。
最優秀短距離馬
グランアレグリア
2000mの距離に挑んだ大阪杯では4着、続くヴィクトリアマイルは牝馬相手とは言え、まざまざと力の違いを見せつける4馬身差の楽勝劇。安田記念はダノンキングリーに敗れての2着。再び2000mに挑んだ天皇賞ではエフフォーリア、コントレイルに及ばずに3着。ラストランとなったマイルチャンピオンシップではタイトなローテながらも同馬らしい強烈な末脚を発揮して優勝し、最優秀短距離馬に選出されています。
マイルG1で2勝2着1回の実績はマイル以下の距離では頭1つ抜けたもので同馬の受賞に関しては全く異存はありません。
近年では国内最強マイラーだったと言って良さそうですね。
香港で無敵を誇るゴールデンシックスティには果たしてこの馬でも勝てなかったのでしょうか?
最優秀ダートホース
テーオーケインズ
アンタレスステークスで初重賞制覇するや続く帝王賞では後続に3馬身差をつける完勝で一躍ダートのトップホースへと躍進。秋初戦のJBCクラシックでは4着に敗れるも続くチャンピオンズカップでは前年の覇者であり、ドバイワールドカップ2着の中和ウィザードに6馬身もの大差をつけての大楽勝。
G1での強烈な勝ちっぷりもあり、最優秀ダートホースを受賞するに至りました。
シニスターミニスター産駒らしい爆発力の高さを存分に示した同馬ですが、個人的には人気で蹴って人気薄で買いたいタイプですかね。
ただ、正直に言うとこの部門に関してはブリーダーズカップディスタフを制したマルシュロレーヌにすべきかと感じます。
最優秀障害馬
昨春の中山グランドジャンプを制して以降、3戦して勝ちきれないレースが続いて『さすがにもう10歳だけに…』という見方も少なくない中での暮れの中山大障害。
先行して直線力強く先頭を駆けていたのはオジュウチョウサンでした。
単に戦績という観点で見ると中山グランドジャンプも含め2戦2勝のメイショウダッサイが同等以上にも思えないでもないですが、暮れのレースを制した印象の強さと絶対王者の復活劇という側面が受賞を後押しした感は拭えませんが、中山大障害の障害界に於ける格を考えるとまあ妥当なところでしょうか。
明けて11歳ですが、現役続行の意向とのこと。種牡馬としての需要には殆ど期待できないだけに走れるだけ走らせようということでしょうか。
筆者所感
各所で話題となっているのがマルシュロレーヌの扱いです。
北米調教馬以外に優勝馬が出ることが1度もなかったブリーダーズカップディスタフ。
2021年に於いては近年でも最高水準のメンバーとも言われていた中での勝利。
事実、1200mの通過タイムはスプリント戦の勝ちタイムという衝撃的な激流となり、勝ち時計も歴代の中でも上位に位置するものとなりました。
間違いなく日本競馬史に残る大偉業だと言って良いでしょう。
ところが、JRA賞では最優秀ダートホースに選出されなかったばかりか特別賞すら受賞できなかったためにブリーダーズカップディスタフ制覇の歴史的偉業があまりにも軽く扱われ過ぎていないかということでネットでも激論が展開されています。
確かに非常に扱いにくい戦績です。
国内での戦績で言えば牝馬限定の交流重賞勝ちまでしかなかったわけです。
『JRA』のレースに限れば平安ステークス3着の1戦だけとなります。
確かにここだけを見てしまうと全く評価すべき戦績ではありませんね。
交流重賞をどのように扱うべきなのか、国外でのレースをどのように扱うべきなのかという点に於いて現制度があまりに曖昧過ぎます。
JRA賞は記者の投票に依って選出されるという方式なのですが、言ってみれば選考基準を個々の記者に丸投げしてしまっており、結果として明確な基準となるものが存在していません。
そして毎年のように『???』と思えてしまうような馬に票が入ったりもしています。
戦前には近年最高のハイレベル戦とも言われていたブリーダーズカップディスタフのレベルや歴史的経緯、レースとしての権威などを投票に参加した記者全員がきちんと把握していたのでしょうか?
個人的な見解としては、今の制度をわかりやすく変更すべし、ということ。
現在のJRAの記者投票制度というのは1987年から続くものです。
当時は交流重賞は存在していませんでしたし、海外遠征する馬は殆どいませんでした。
しかし時代は変わりました。
今年のラヴズオンリーユーのように海外のG1を何戦もする馬は今後も出てくることでしょう。
スマートファルコンのように交流重賞を転戦してJRAのレースに殆ど出走しない馬も出ることでしょう。
そうしたケースに今の投票制度に於いてはあまりに基準が曖昧過ぎると言わざるを得ません。
提案としては、各レースをポイント制にすべきかと。
例えば皐月賞は8ポイント、ダービーは10ポイントといった具合にです。
これならば帝王賞は5ポイントだとか香港カップは8ポイントだとかで、国内外のレースに於いても明確な基準が出来ます。
ポイントの基準はレーティングとレース自体の権威から年々調整を行いながら定めれば良いでしょう。
それに特筆すべき点があった場合、例えば2020年のジャパンカップのように非常にレベルの高かったレースにはボーナスポイントを付与すれば良いかと思います。
その上でポイントが並んだ時に記者投票を行えばいいのではないでしょうか。
一定のポイントを上回って受賞に至らなかった馬に特別賞を与えるといった形で。
この方式が良いか良くないかはさておき、現制度には無理が生じてきているのは明確です。
このまま無理な状況を続けていくことはJRA賞の価値そのものが低下していくことにもなります。
JRAには本気で改革に取り組んで頂きたいというのが何よりの本心ですね。