うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

藤田菜七子、ブレイクなるか?

JRAでは今週から女性騎手に対する新たな減量制度が現実のものとなります。
現在、JRAの女性騎手は藤田菜七子騎手だけですから当面は彼女に対してだけの制度となります。


個人的な見解から示すとこの制度はあるべきだと思っています。
こう言うと単にミーハーに見られてしまうのかもしれないのですが、そうではないんです。

競馬というのはギャンブルというのは事実なのですが、プロスポーツとしての側面を少なからず持っています。
そしてプロスポーツというのは「ショービジネス」です。
ショービジネスに於いて「人気」というものは何より重要視されるべき要素でもあります。
かつてオグリキャップの登場で競馬の人気は飛躍的に向上し、「競馬」に対する世間一般のイメージすら変えてしまい、馬券の売上にも大きく貢献したことかありました。
JRAにしても基本的には利益を出すことが前提の組織ですから、ショービジネスとして様々な努力、工夫を重ねています。
騎手にしても然りで、JRA的には人気騎手が現れてほしいのが興行的な本音とも言えます。
ただ、騎手自身はファンに人気があったからと言っても成績が上がる訳でもありませんから殆どメリットなどありません。
ですから、そうしたショービジネスとしての魅力を作り出すには興行元のJRAが最も重要性を持ってきます。

その観点に於いて「女性騎手に対して活躍しやすいルール作り」を行うことは有効だと思うからこそ、この制度はあるべきだと思うわけです。
「女性騎手」というだけでも人気を得やすくなるだけの価値があるのは事実です。
これに対して「他の若手男性騎手で高い技術を持つ騎手もいるのに藤田菜七子だけにこうしたルールを作ってもてはやすのは不公平だ」とする意見も少なからずあります。
これについて私個人が感じているのは、まず男女間のフィジカル的な能力差があるのは間違いない事実ですから競走馬同様に多少のハンデを付けるのは有りだと思うと共に人気になりやすい「女性騎手」ということはある種、「才能」でもあると見ることが出来ると思います。
実際に先日のフェブラリーステークスでは藤田菜七子の参戦が大きな話題を呼んだのは事実であり、馬券の売上は前年を20億円以上上回ることになりました。
仮にこれが若手有望騎手の1人、坂井瑠星あたりが同様の状況だったとしたらこんなことはなかったでしょう。

こうした理由から女性騎手に対しての減量制度はあるべきだと感じていたんですね。

で、具体的にはどうなのかと言うことですが、藤田菜七子は通算の勝利数が50勝を超えており、現在は平場のレースで1キロ減で騎乗出来ていたものが、3キロ減へと変更になります。
藤田菜七子自身、デビューから3年となりますが、デビュー当初と比較すると明らかに技術的には向上してきています。
昨年は2キロ減で騎乗することが殆どでしたが、それでJRAで27勝を挙げています。
馬主達にも少なからず人気はある騎手であり、騎乗依頼を受けやすいという点はありますが、今現在の彼女の技量を考慮すると、そこからの1キロ減というのは間違いなく効いてくると思われますね。

では、実際に彼女の実力の程はどの程度なのか?
ここで少し検証してみることにしましょう。

特別戦に於いては減量の恩恵を受けることはないのでJRAの平場でのデータを少し示してみます。

まずデビューの年、2016年。

5-12-7-257/281 平均人気 8.4 平均着順 10.0

続いて2017年。

13-15-11-300/339 平均人気 8.7 平均着順 9.7

昨年、2018年。

26-25-17-462/530 平均人気 7.8 平均着順 9.4

今年、2019年2月一杯まで。

3-4-1-76/84 平均人気 8.5 平均着順 10.4


この数字を見て、すぐにわかるのはどの年も平均人気が平均着順をはっきりと上回っていること。
これは単純に「藤田菜七子人気」により過剰人気になってしまっていることと言って良いかと思います。
この点については外的要因が大きいため、彼女の実力を測るのは難しいように思います。

では、複勝率に目を向けてみます。

2016年  8.5%
2017年 11.5%
2018年 12.8%
2019年  9.5%

年々、その数字を上げてきていることが見て取れます。
2019年はやや低い数字となっていますが、これはそれまで2キロの減量だったものが1キロへと減ったことが影響しているように思います。
むしろ2018年、3キロ減だったものが2キロ減になったにも関わらず12.8%とその成績を向上させているように1、2年目の時点より明らかに成績を上げてきており、確実に技術的にも向上していることが数字からも見て取れるものとなっています。
3月から藤田騎手は再びデビュー当時と同じ3キロ減量に戻ることとなります。
2キロ減で12.5%の複勝率を残してきた同騎手が更に1キロ軽い斤量で乗せられるのなら彼女自身の人気だけでなく、純粋に騎手としての魅力が大きいものとなってくるのは間違いないでしょう。
現状では10%弱の複勝率ですが、それがこの新制度を生かして20%前後にまで伸びるようなら十分に中堅クラスの騎手として評価出来ると思います。
実際に「菜七子争奪戦」になるのではとも報道されていますね。

彼女を乗せたいという馬主、調教師が多くなるならば当然、騎乗依頼が重なってくることも多くなることでしょう。
そうなると騎乗馬のレベルは自ずと上がってきますから彼女の成績も大きく伸ばせる非常に大きなチャンスとなるのは確実です。

彼女にとってはここが正に騎手人生に於ける正念場となってくるかもしれません。
ただ、だからと言って彼女の騎乗技術が急に伸ばせるわけもありません。
むしろ、彼女がこれまでに培ってきた経験や努力が問われることになります。

ただ、少なくともしばらくは騎乗機会はこれまでより多くなることでしょう。
昨年はデビュー以来最多の605回の騎乗をしてきた彼女ですが、トラブルなどがなければこの数字を上回る可能性が高くなっています。
ですから、当面の間は活躍して騎手としての評価を上げると共に多くの騎乗機会から経験値を得ていくチャンスでもあります。

この大チャンスを生かして騎手として大きくステップアップしていくのか、そうでないのか。

更には彼女の後に続こうという若い女性騎手候補達にも大きな影響を与えかねないわけで、そういう意味では藤田菜七子は非常に大きなチャンスと共に背負わされるものもまた大きいものとなるでしょう。

それでも、彼女にはこの機会を生かして活躍していってもらいたいという気持ちです。
女性騎手が活躍することになれば、競馬界は少なからず盛り上がることになるのは明白です。

繰り返すようですが、プロスポーツはショービジネスである以上、人気商売です。
騎手は純粋にその騎乗技術だけで勝負するだけだ、という意見もありますが、個人的には今のエンターテイメント業界の中で生き残るためにはそれだけでは十分ではないと思います。

そのために藤田菜七子だけでなく、全ての騎手達も「プロスポーツ選手」として頑張ってもらいたいですね。