2019年 天皇賞(春)回顧
古馬G1ながら出走メンバーの中のG1勝ち馬は昨秋の菊花賞を制したフィエールマンのみ、と言うと貧相なメンバーにも思えなくもないのですが、その菊花賞の上位馬の多くが順調に駒を進めてきていました。
結果的に若く、将来性の高い馬達が集い、レースとしては非常に魅力のあるものだった印象です。
そして終わってみれば、その昨年の菊花賞の上位馬達がその力を示すものとなりました。
唯一のG1馬フィエールマンがグローリーヴェイズとの壮絶な一騎打ちの末にこれをねじ伏せて優勝。
名実共にトップホースの1頭に名を連ね、次代のエースとしての可能性も大きく膨らんできました。
では、レースについて見ていくことにしましょう。
戦前より逃げ宣言をしていたヴォ―ジュがハナを切り、日経賞を押し切ったメイショウテッコンが追走。
ロードヴァンドールもその外目からこの2頭を追走していく形の序盤。
人気のフィエールマンは中団に、ユーキャンスマイルはそのフィエールマンから2、3馬身程の位置での追走、エタリオウはスタートはほどほどながらゆったりとした走りで前からは大きく離れた最後方から。
ヴォ―ジュは2ハロン目までのスピードを緩めることなく、早めのラップを刻み続け、メイショウテッコンはやや離され、単騎逃げの形に。
序盤の1000mのタイムは59.8と3000m級のレースとしてはかなりのハイラップに。
このあたりからヴォ―ジュが徐々にスピードを緩めてくるも1400m通過時点では1:24.5と依然として厳しいラップを刻み続け、後続はその差をやや詰めての追走。
ここから一気にヴォ―ジュがペースを大きく落とし、ラストに脚を残すべく息を入れるものの、後続の馬達もその差を詰めながら馬群の長さは序盤の半分強ほどに。
先頭から遥かに離された最後方からの追走となった2番人気のエタリオウですが、徐々にその差を少しずつ詰めながらの追走。向こう正面、残り半周近くある地点から早くも押っ付けながら話されていた馬群に取り付くや3コーナーでは中団にまで進出。
馬群が3コーナーを通過したあたりで先頭を走っていたヴォ―ジュが急激に失速。恐らく、この付近で故障を発症したものと思われます。
替わってカフジプリンスとメイショウテッコンが先頭争いに代わるも、その外から人気のフィエールマンが余裕の手応えで接近。そのフィエールマンの外からグローリーヴェイズがぴったり付いて、先頭がこの2頭に入れ替わるところで馬群は直線に。
フィエールマンとグローリーヴェイズが先頭で叩き合いとなり、それをパフォーマプロミスとエタリオウが追撃する形に。
フィエールマンとグローリーヴェイズの両ディープインパクト産駒の激しい叩き合いの前に他馬は完全に置き去りとなり、その差をグイグイ広げられていき、最後までグローリーヴェイズを抜かせなかったフィエールマンが優勝。
クビ差届かなかったグローリーヴェイズが2着。
この2頭から6馬身引き離された3着争いは最後にエタリオウが僅かに失速して前に出たパフォーマプロミスが先着、エタリオウはここでも勝負弱さを露呈してしまい、4着。
更に3馬身離れた5着にはしぶとく伸びてきたユーキャンスマイルが入線。
フィエールマン
昨年の菊花賞の内容やディープインパクト産駒だということでこのメンバーの中では瞬発力は優れている一方で本質的にはステイヤーではないと見ていたのですが、結果として見ていくと十分なステイヤー資質を持っていた、というべきでしょうか。
終盤、4ハロン連続で11秒台のラップを続けてきており、これは一介の瞬発力タイプにはまず難しいラップの刻み方でもあります。
単に3ハロンのタイムならば34.5と歴代の天皇賞(春)の中でも上位の速さではありましたが、これは上位2頭の見せたパフォーマンスが際立っていただけではないかと見ています。
各馬の着差が大きく開いていたことからも決してスローペースからの斬れ勝負ではなかったことが窺えます。
恐らく近年の天皇賞(春)の中でも最高クラスの水準だったのではないかと思います。
グローリーヴェイズ
この馬の存在なくしてはフィエールマンの強さは引き立つことはなかったでしょう。
この馬も戦前はディープインパクト産駒ということもあって3000m超級では距離的に長いだろうと見ていたのですが、どうやら誤りだったようです。
終始、フィエールマンをマークするような位置で追走し、一瞬は先頭に立とうかという場面まで作って見せました。
この馬もまたステイヤーとしてかなり高い資質を持っていたということではないかと思います。
産駒達は大成出来なかった牝馬三冠馬メジロラモーヌですが、曾孫の代でその豊かなステイヤー資質が開花するとは思いませんでしたね。
パフォーマプロミス
「普通の年」ならばこの馬が勝っていても可笑しくなかっただけのパフォーマンスは示していたのではないかと思います。
ペースやタイムなどを勘案してもこの馬が大体例年の天皇賞の水準かと思います。
ステイゴールド産駒らしいしぶとい末脚を長く使っており、アルゼンチン共和国杯で見せた上がり32.5をマークした走りよりは今回の走りがベストパフォーマンスではなかったかと思います。
その反面で2400m程度の距離ではG1で通用するのはなかなか難しいのかな、という印象も少なからず受けました。
今回、勝てなかったのは運が悪かった、相手が悪かったという印象です。
エタリオウ
先頭に立ちたがらないというある意味、致命的な性格のこの馬ですが、恐らく他馬と同じような位置からの競馬では競り負けてしまうという懸念から今回のような極端なレースを試みたのではないかと思います。
ロングスパートで捲り切って押し切る、これが陣営の描いた作戦ではなかったかと思うのですが、悔やむべきは上位2頭が終盤でも十分に脚を残してしまっていたことでしょうか。
フィエールマンとグローリーヴェイズを早めに捉えることが出来なかった時点でその作戦は夢散し、あげくにパフォーマプロミスに3着を譲ってしまいました。
一見すると「デムーロ何やってんだ」「やる気あんのか」という罵声を浴びせかけられ兼ねない走りですが、陣営の描いた精一杯の作戦だったとも見えます。
この馬のそうした不器用さがそうせざるを得なかったのかもしれませんね。
ユーキャンスマイル
5着と着順を見れば相応に形になった印象を受けますが、10馬身も離されてしまっては力負けと言わざるを得ないかと思います。
現状ではG2、G3あたりならば通用するものの、トップクラスが相手ではこれが現状なのかもしれませんね。
余談ではありますが、香港で行われたクイーンエリザベス2世カップ、日本から遠征したウインブライトが見事に押し切って優勝。
松岡騎手のロスの少ない騎乗も見事でしたし、初の海外遠征ながらきっちりコンディションを整えた陣営も素晴らしい、何よりウインブライト自身が高いポテンシャルを発揮して香港、日本の有力馬達を撃破したのは実に見事でした。
勝ちタイムの1:58.81は日本の感覚で見ると普通のタイムにも見えますが、そもそも日本と香港とではタイムの計測方式が異なっており、日本はスタートと共にタイムを計測していない方式を取っており、仮に日本式の測り方をした場合、今回の勝ちタイムは1秒以上早いものとなります。
馬場状態が良かったこともありますが、芝質は日本のものよりタフなものでもあり、こうした馬場にウインブライト自身が向いたタイプだったのでしょう。
もしかするとこの馬、日本国内のような軽い馬場よりはヨーロッパなど、タフなコンディションの方が真価を発揮できるのかもしれないとも思ってしまいますね。
何にせよ、実に素晴らしい走りでした。