うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

高速馬場と故障

昔からの競馬ファンは段々と芝馬場のタイムが早くなってきているのを実感されている方も少なくないかと思います。

 

昨年のジャパンカップではアーモンドアイが芝2400mで2:20.6という桁外れのタイムをマークするなどしており、一体どこまで高速化が進むのかという懸念を持つ方も多数いるかと思います。

 

かつては芝2000mで2分を切るということが1つのステータスにさえなっていたものですが、今では2歳馬ですら2分を切っても誰も驚かなくなっています。

 

実際に芝コースのタイムは明らかに早くなっていると言っていいかと思います。

 

そして、こうした早いタイムやレースでの故障馬が出る度に必ずと言っていい程に出てくるのが、

「高速馬場が競走馬の脚に負担を掛けて故障を誘発している」

「馬場が硬過ぎるから競走馬が故障する」

と、いった論調。

 

これは本当なのでしょうか。

 

これについて少し検証してみることにしましょう。

 

 レースでの故障率

今から20年前の芝レースでの故障率は約2%というデータがあります。

雑な計算ですが、3レースに1頭くらいの割合で故障馬が出ていたことになります。

尚、当時のダートでは1.4%程度となっています。

 

それから20年、当時より早いタイムが出るようになっている現在、芝コースでの故障率は実は1%強程度となっています。

 

そう、実はかつてのダートよりも低い故障率にまで低下してきています。

 

この時点で早いタイムが出る馬場だからといってイコール故障に結びつくということはないことがはっきりしています。

むしろ、この故障率に関してはダートがメインの北米の方が高い傾向が出ています。

 

 

もちろん、医療技術の向上でレースで故障する前に問題を発見することが出来たり、調教技術の向上などによって故障に結びつくことが少なくなってきていることは影響しているのかもしれませんが、それを加味しても芝コースでの故障率はダートコース以上に少なくなってきており、単に早いタイムが出る馬場が故障させているわけではないことがはっきりとしています。

 

馬場の硬さ

結論から言うとJRAの芝馬場は実はそれほど硬くはありません。

馬場の硬さと言うのは硬度計で計測していたりもするのですが、近年の馬場の硬さと言うのは80~90程度の硬さの数値となっているのですが、この数値はヨーロッパの競馬場と同じくらいの水準で、イギリスダービーが行われるエプソム競馬場と同じくらいだそうです。

昔はこの硬度が120くらいの数値だったとのことで、むしろ馬場自体は柔らかくなってきているんですね。

 JRAの馬場管理担当者もこのあたりはかなり意識しているようで、馬場が硬くなると故障に繋がる可能性は多少なりともありますし、そこに付け込まれて叩かれてしまうのは明らかなため、可能な限り硬くなり過ぎることのないように管理しているとの発言もあります。

 

高速タイムが出るワケ

では、何故早いタイムが出るようになっているのか?と、言うとJRAの馬場の作り方が変化してきたためです。

馬場の凹凸を極力少なく、平滑な馬場になるように馬場管理を行い、芝の品質改良を続けてきているためだったりします。

JRAの芝の開発技術と言うのは非常に高いレベルを誇っており、そうして開発された芝は今や競馬場だけでなく、サッカー場など多方面で活用されてきています。

 

馬場の凹凸(ここで言う凹凸とは傾斜の度合いや有無ではなく、細かい窪みや出っ張りのこと)を少なくすると馬達はそれに脚を取られたりすることなくスムーズに走れます。

例を挙げると、何も手が加えられていない野原は硬くはないでしょうが、凸凹があって走りにくく、スピードも出ない、というのは一部の都会の人を除けば経験された方はあるかと思います。

それに対して整備されたグラウンドは硬いながらもスピードが出て走りやすい、ということは良くわかってもらえるのではないでしょうか?

しかし、そこでわざわざ原っぱで早く走る為のトレーニングを行う人はほぼいませんし、それを推奨している人もあまりいません。

 

JRAとしては平滑で馬が走りやすく、負担の少ない馬場になるような馬場を作ろうとした結果として、高速馬場が出来上がったと言っていいかと思います。

何もレコードが次々に出るような馬場にしてファンにアピールしているなんてことはないんですね。

そもそも、早いタイムが出たからと言って競馬の魅力が増して馬券の売り上げが増える、なんてことはないのは明らかですしね。

 

まとめ

つまり、日本の高速馬場が故障を多発させている、というのは単に「スピードが出るから脚に大きな負担を掛ける」というイメージが先行してしまっていると言っても過言ではないかと思います。

 

実際にネットなどでそうした意見が多数見られているわけですが、そうした意見を述べている方の大半はこうした検証というものを行うことなく、自身のイメージや他者のそうした発言などでそう思い込んでいるようにも見受けられます。

 

実は上記のような情報は以前から述べられていることでもあり、具体的な故障率の検証を行った方もいらっしゃるのですが、意外とこれが浸透していないようです。

 

私は何も高速馬場至上主義ではありませんし、かつてなら考えられないような早いタイムが簡単に出てしまうこと自体は、それほど良いイメージを持っているわけではないのですが、馬の負担が少なく、フェアな馬場となることは大いに良いと思っています。

 

それだけにそうした努力を日々行っている関係者がお門違いな文句を言われてしまうことに対しては眉を顰めたくなりますね…。