うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

不思議な魅力を持っていた世界「EZダービー!」

EZダービー」。このタイトルを知っている方が今、どれだけいるだろうか。

 

20年程前、携帯電話は電話としての機能に加えてメールやインターネットが出来る機能ができ、そのシェアを大きく伸ばしている時期でした。

ある程度、携帯でアクセス出来るサイトも多くなり、簡易的なゲームなども出回るのにそう時間は掛かりませんでした。

 

そうした時期にタイトルにもある「EZダービー」は現れました。

ダービースタリオンのブレイクの数年後であり、競馬ゲームというジャンルが確立されていた頃の話であり、それが携帯ゲームになるのも当然のなりゆきだったかもしれません。

 

私がEZダービーの存在に気付き、その世界の扉を叩いたのはそれから間もなくのこと。

月に315円の利用料。

初期の携帯ゲームだっただけあってゲーム自体は簡易的なものでした。

ダービースタリオンなどと同じ競走馬を育成し、出走していくというもの。

オンラインゲームでもあったため、レースで対戦することになるのは日本全国のプレイヤー達が同様に育ててきた馬達。

パソコンゲームではそれ以前からそうしたオンラインゲームは存在していましたし、ゲーム内で出来ることの幅も広く、非常に良く出来ていたものもありましたし、その存在も知ってはいたのですが、それでも私はEZダービーの世界の住人へとなっていきました。

 

ゲームの内容としては、競走馬の生産と言う概念はなく、2歳もしくは3歳の馬を選択するところから始まります。

この選択の時点で選ぶ競走馬は予め距離適性と成長タイプが決まっており、距離適性は短、短中、中、中長、長の5種類。成長タイプは早熟、普通、晩成の2タイプが存在していました。

また、血統も予め定められたパターンの中から選ぶことが出来ました。

管理できるのは3頭まで。

1シーズンが現実競馬で言う1年に当たり、1シーズンは50日間。

現実時間の1日がゲーム内で1週間に相当するものとなっていました。

1日に1頭に付き、2回まで調教が出来るというシステムで、調教メニューは芝でスピード能力が鍛えられ、ダートでスタミナ能力が鍛えられるなどといったダービースタリオンを模したもの。

調教の強度などにより馬の調子が連動して変わっていくというものでした。

もっとも能力が発揮しやすいと言われる馬体重も存在し、プレイヤーの間では「BOB」(ベストオブベスト)などと言われていたのでした。

馬の素質の違いもあり、ダメな馬はトップトレーナーが育成しても最強クラスには至りませんでした。

このように比較的単純なゲームであるのですが、実際にゲーム内で他プレイヤーと対戦してみると意外に馬の強い、弱いははっきりと差が出るんです。

G1レースなどで活躍するのは実力のあるプレイヤーが殆どとなっていました。

 

尚、実際の競馬と同じように新馬戦、未勝利戦、500万下といった条件戦が存在し、それらを勝ち上がっていくことで上のクラスに上がっていくというのは現実競馬と概ね同じ(降級などはありませんでしたが)でした。

重賞以外のレースではフルゲート9頭で、それを上回った場合は分割して同じ条件のレースが行われる、といったシステムで、登録馬が5頭を下回った場合は原則としてレースが不成立となる仕様となっていました(後にこのあたりは若干変更が行われましたが)。

 

毎日1つ行われる重賞には獲得賞金順で出走出来るシステムで、G2、G3では原則として複数のレースが開催され、G2は2レース、G3は3レースが行われ、G1のみが1レースの開催で、フルゲートは18頭となっていました。

 

ゲームそのものとは別にプレイヤー同士が交流を行えるチャットルーム「掲示板」が3つありました。

個人的にはこれが大きかったです。

全国のプレイヤー達がここに多数集っていて、ゲームについての会話はもちろん、様々な話題で盛り上がっていたのでした。

このやりとりが楽しく、これがなかったならこのゲームをプレイし続けることはなかったでしょう。

このチャットルームでのやりとりをメインにしていたプレイヤーも少なくはなかったでしょう。

私自身もこの掲示板に入り浸り、携帯の通信料金がパケット制だった当時、月のパケット代が3万円を超えて、青ざめた記憶もあります。

 

因みに「ゆ~じ~」はその時のプレイヤー名だったりします。

 

敷居の低さもあり、ゲーム初期には3000人ほどのプレイヤーがいたと言われていましたが、その中でも熱意あるプレイヤー達は気の合うプレイヤー達とチームを結成したり、オリジナルのサイトを作ったりしていました。

 

ゲーム内のレースは結果が携帯にレース実況のメールが来るというシステムで、レースの様子は見ることが出来ないといったものでしたが、パソコンを使うとレース画面を見ることが出来るものとなっており、レースを見れる環境にない人にはレース状況や出走馬の分析を行うサービスを行うプレイヤーなども存在していました。

※ 当時はパソコンも持っていない人も少なくありませんでした。

 

簡単なゲームシステムなのですが、調教の仕方、レースへ向けた調子や馬体重の調整、他プレイヤーとの駆け引きなどやれることは意外とあり、それらを的確に出来るプレイヤーが結果、活躍していくことになりました。

 

各調教の調子の変動具合であったり、成長具合、調子の走りに与える影響、芝とダートの適性、ペースと脚質が走りに与える影響など表向きに示されていないファクターもあり、プレイヤー達はそうしたファクターを的確に把握して実践することで活躍に結び付けていたのでした。

 

簡易的なゲームであったこともあり、他に様々なゲームも現れ、後継となるようなゲームなども現れ、次第にプレイヤーは減少することになり、EZダービーの寿命は数年でした。

記憶が確かならば4年程でサービスは終了しました。

 

それから15年ほどが経過し、非常にたくさんのゲームが世に現れました。

携帯もスマホ全盛となり、その性能は桁違いに上がり、据え置きゲーム機に匹敵するほどの高品質のものも多くなりました。

 

しかし、私自身はその僅か数年がもっとも楽しかった、と感じています。

 

比較的、単純なシステムが性に合っていたのかもしれませんが、それ以上に全国の見知らぬプレイヤー達と触れ合えたのが何より楽しかったように思います。

チャットの世界ですから「近からず遠からず」の距離感も良かったのでしょう。

競馬ゲームのプレイヤー達ですから競馬の話は合いやすいですし、そうでない人とも話しやすかった。

 

仲良くなったプレイヤー達とは現実世界でも会った人も少なくありません。

10数人には会っていたでしょうか。

オフ会をすべく東京にまで出向いたこともありました。

 

実に不思議な空気感を持った世界でした。

ネットの世界というとその匿名性もあり、酷い発言がなされることも多々あるものです。

ですが、このゲームの掲示板では差別的発言や酷すぎる発言は一般的なチャットやネット掲示板に比べて何故か少なかったものです。

大したことはしゃべってないんですが、いるだけで何となく楽しい気分にさせる何かがありました。

だから本編であるゲームにも力が入ったし、楽しめたんだと思いますね。

 

そして、その楽しみを他のプレイヤーとも共有したいとの気持ちも生まれ、イベントレースを企画するなど色々な事にも取り組むことが出来ました。

ゲーム内でもそれなりに活躍させてもらいました。

 

他のプレイヤーと対決することのない今だから明かせますが、調教を行った日と休んだ日とでは翌日の馬体重の回復に差があり、より効率的に能力を上げていくためには馬体減が芝よりも少ないダート調教がもっとも効率が良いと判断し、ダート一杯調教を2回続けて行い、翌日は疲労と馬体重の回復のために休ませるという調教パターンをメインに行っていましたね。

結構、皆思っていたのがスピード調教とスタミナ調教をバランス良く行わなければならない、ということなんですが、実は案外そのバランスは偏っても強くなるんですよ。

経験則ですが基本的に強度の強い調教の方が能力は効率よく上がりやすかったですね。

晩成馬などはまだ能力の低い早い時期には無駄にレースに使わず、能力が完成する時期にオープンクラスに勝ち上がれるように逆算し、1シーズン近く調教で鍛え込んでからレースに使い出すといった使い方をしていましたね。

また、調子が上向いてる期間は体重の増加が大きかったことからなるべく鍛える段階では調子が上向く期間が多くなるような調教、レースの使い方を意識していたものでした。

馬の実力はタイムで比較的容易に把握出来たため、芝、ダートの適性把握を行い、それでも基準値に満たない馬は素質が足りないと判断、3歳半ばには早々に引退させて次の2歳馬を導入するといったことなどを行っていましたね。

 

これが当時の「ゆ~じ~」および「UG」厩舎の基本スタイルだったんです。

 

形は違えど、トップクラスのプレイヤーは何かしらこうした工夫などはしていたものと思います。

このように色々と考えてプレイしていけば、それなりに他のプレイヤーより有利になることも少なくなく、シーズン賞金王も幾度か獲らせてもらいました。

そうした努力が多少なりとも結果に結びつく点も魅力はあったんでしょうね。

 

それもこれも楽しめる環境があってこそです。

 

関わってくれていた数々のプレイヤー達とゲームを提供してくれていた当時のシステムプロにはかけがえのない時間をありがとう、と今更ながら感じます。