うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

インティの活躍から思うこと

先日の東海ステークスでは素晴らしい強さを見せて完勝。
フェブラリーステークスでも人気になることが予想されているインティ。
彼が生まれたのは浦川にある夫婦2人でやりくりしている小さな牧場だそう。

今の日本競馬はノーザンファーム、社台ファーム、追分ファームなどいわゆる社台系の生産馬が圧倒的に強いのが実状であり、G1レースの殆どを持っていっています。

小規模な牧場は様々な面で不利になってしまうことも少なくないのですが、社台グループにノーザンテースト、サンデーサイレンスが導入されたことでその差はあまりに大きいものとなっています。

そもそも夫婦2人でやりくりするような牧場に出来ることはそう多くはありません。

1つの例えを出してみると、大手の牧場は当たり前のように海外から繁殖牝馬を導入していたりしますし、その産駒も走っているケースは多いですが、そうした小さな牧場が海外に馬を買い付けに行くなんてことがそうそう簡単に出来ますか?って話です。

仮に自分で海外に馬を買いに行くことを想像してみてください。

言葉はどうする?
どこに買いに行けばいい?
どうやって買うのか?
買えたとして輸入の手続きは?
輸送はどうする?
諸経費はどのくらい掛かる?


などなど挙げていったらキリがないくらい色々と課題が出てきます。
勿論、そうした手間だとかは大手の牧場も同じと言えば同じですが、それを1人とかで手配していかなくてはならないというのは決定的に違うところ。

2、3人でやっているような牧場であれば、1人でも何日も牧場を開けて買い付けに海外へと赴くなんてことはそうそう出来るものではないのが想像出来るかと思います。

恐らくそうした時には仲間などに協力してもらったりもして牧場を何とか支えていると思われます。


前述のインティの生産牧場は小規模ながらもそうした努力も行ってきているようで、インティの母キティは父がノーザンアフリート、母父はフォレストリー。
母フォレストキティを輸入してきて日本で生まれた持ち込み馬がキティです。
キティはその後、1600万下まで行く活躍を見せ、繁殖入りした後にケイムホームを付けて生まれてきた馬こそインティです。

日々の馬達の世話をするだけでも本当に大変なことなのはJRAの厩務員が担当する馬が基本的に1人2頭ということからも垣間見えるんじゃないでしょうか?
その中で、セリに行ったり、種付けに行ったり、競馬場へ行ったり、時には海外にまで行ったり、としていかなくてはならないんです。

2、3人しかいなければ1人であらゆる業務が出来なくてはならないですし、その仕事量にしても効率にしても限界ってものがあります。

今風の言い方をするなら「キツい」、「汚い」、「危険」の全てを兼ね備えた非常に「ブラック」な仕事です。

故に馬産地では慢性的な人手不足に陥っています。

育成牧場などを実際に見たことがある人はわかるかもしれませんが、馬に乗っているスタッフは出稼ぎ外国人ばかりなんですよね。
日本人は集まらず、結局は外国人が仕事を担っているんですね。

元々持って生まれた素質の面に於いても大手の牧場に対しては厳しい状況ではあるんですが、競走年齢に達するまでの期間に於いても育成の面で徐々にその差というものが大きくなってしまいますよね。

持って生まれた素質は変えることは出来ませんが、後天的なものは変えられる部分でもありますが、そこでも差がつくならば、勝てないのは当然ですよね。

そりゃ、500万円の馬と2億円の馬とじゃ、育成に於いても掛けられる手間や費用は差がついて当たり前のことではありますが…。

ただ、そんな小規模牧場では血の出るような思いをするキツい仕事を重ねながら彼等なりに必死に大手との差が付かないよう努力をしています。
でも、そんな厳しい世界に望んで入ろうとする若者など殆どいません。
ですから、社台グループなど大手を除いては常に人手不足、後継者不足に頭を抱えているのが現実です。

「夢」がある業界の麓では夢のない現実がそこにあります。

話をインティに戻してみましょう。

インティが出たことは勿論、牧場にとっては非常に喜ばしいことではありますが、牧場には賞金は入りません。
生産者賞などもありますが、はっきり言ってそれで牧場の経営が変わる程の大した額ではありません。

ただ、母のキティの産駒が今後は高く売れやすくなることが牧場にとっては好材料となるわけですね。

そのためにはキティの産駒を生産、育成して、売れて初めて結果になるんですね。
つまり、今後も何とか頑張っていかないことには本当の成果はないんですよね。

インティの生産者さんは現在、療養中だそうです。
何とか頑張って元気に活躍してほしいです。

馬を買うことが出来ないような私のような一般人には馬券を買ったり、こうしたメディアを通じて競馬界を盛り上げていくことで中央、地方の賞金が良くなり、生産者達にも還元されていくよう願うことくらいしか出来ないですが、そんなごくごく些末なことながら応援していきたいです。