うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

2019年 エリザベス女王杯回顧

アーモンドアイ、リスグラシュー、ディアドラと昨年以降目覚ましい活躍を見せた名牝達の名はない中で、次代の主役候補として無敗のオークス馬ラヴズオンリーユーに注目が集まるのは当然、といった状況で行われた今年のエリザベス女王杯。

 

この一戦を制したのは直線で凄まじいまでの末脚を爆発させた2歳女王ラッキーライラックでした。

 

レース展開総括

発馬直前にゲート内でバタついていたゴージャスランチが出遅れ。他馬に大きな出遅れはなく、内の好枠を引いていたクロコスミアが難なく前へと進出。外目から人気のラヴズオンリーユーが先手を奪うべく勢いを付けようとするもクロコスミアは譲る素振りを見せない構え。

それに対してラヴズオンリーユー、デムーロは無理に競り掛けることなくクロコスミアを先に行かせて2番手に控える姿勢。他の馬達もクロコスミアに競り掛けていこうとする馬はなく、クロコスミアが難なく自分のペースで後続を引き連れていく展開に。

穴人気の一角センテリュオはこの2頭に続いての3番手。秋華賞馬クロノジェネシスは6番手付近、それを見る位置にスカーレットカラー、ラッキーライラックが続いての追走。穴人気になっていたウラヌスチャームは後方からの競馬となり、人気薄の各馬はその殆どが後方から追走する展開に。

クロコスミアの1000m通過は62.8。明らかなスローペースながらクロコスミアに競り掛ける馬はなく、依然としてやや離れた2番手でラヴズオンリーユーが追走。

それを追う各馬とも積極的に仕掛けようとはせず、3コーナーを前にクロコスミアが他馬とのリードをジワジワと広げていき、そのリードは2番手で追走するラヴズオンリーユーまで7馬身程、1秒を超えるリードに。

そのまま、クロコスミアはペースアップしたまま最終コーナーを回り、直線に。

リードは依然として5馬身程をキープ。

ラヴズオンリーユーは一旦は内に入ろうとする動きを見せるも馬場の良い外に持ち出して追走するもなかなかクロコスミアとの差は縮んでは来ない。

空いた最内からはラッキーライラックがただ1頭、一完歩毎に前との差を詰めてくる。

必死に粘り込みを図るクロコスミアの疾走でしたが、ラッキーライラックの猛追の勢いは全く止まることなく瞬く間にクロコスミアを交わして1着でゴール。

最後までバテることなく粘ったクロコスミアが3年連続で2着、ラヴズオンリーユーは最後にようやくその差を詰めてくるもクビ差の3着まで。ラヴズオンリーユーをマークしていたセンテリュオが4着。中段前目に位置していたクロコスミアは鋭い脚を見せるも5着まで。

 

レースラップは、

12.7-11.6-13.3-12.7-12.5-12.8-12.3-11.6-11.5-11.4-11.7

 

クロコスミアが迷いなく行く姿勢を見せたことで各馬ともこれに競り掛けようとしなかったことで、クロコスミアは難なくペースダウンして2歳馬でも難なく追走出来る程のスローペースとなっています。

しかし、1度大きくペースを落としてからの藤岡騎手が実に上手いラップを刻んでいきます。

これ以上ないくらい落としたペースを残り1000mを残した地点から少しずつ上げていきます。他馬はこれを無理に追走せず…というよりは追い掛けにくい状況へと持ち込まれてしまっています。

この時点で真ん中より後方にいた馬には全くのノーチャンスとなっています。

残り800mからは11秒台にラップを上げていますが、ここまで十分にスタミナを温存した上に無理なく徐々にペースを上げていたクロコスミアは無理することなくスムーズにペースアップさせながら持ち味であるスピードの持続力を最大限に生かせる形に持ち込ませています。

 

あれで負けたらもう仕方ないと言ってもいいかもしれません。

 

 

では、個々の馬について簡単に触れてみましょう。

 

1着 ラッキーライラック

好枠もあり、先行する姿勢は見せるものの当初思っていたほど前には行けずに8番手あたりでの追走。道中はラヴズオンリーユー、クロノジェネシスを見る形でインで馬の気持ちをコントロールしながらの追走。本格的に追撃を開始したのは4コーナー手前から。各馬とも内の荒れた位置を避けるように走っているインを躊躇なく突いて、馬の加速にブレーキを掛けることなく猛追し、上がり32.8と爆発的な末脚を発揮させました。

スミヨン騎手のこうした巧みな騎乗なくしては掴めなかった勝利ではありますが、この馬の真の力なくしては今回の走りはなかったとも。

2歳時から30キロ以上も大きくなり520キロもの牝馬らしからぬ馬体に成長。

やはりこの馬の父はオルフェーヴルでした。並外れた潜在能力を持ちながらもそれを出し切れないことが少なくないオルフェーヴル産駒ですが、それを上手くコントロール出来た時には凄まじい能力を発揮することを改めて示した一戦だったかと思います。

 

2着 クロコスミア

前述したようにこの馬としてはほぼ完璧なレースを展開出来ました。レース中の怪我で急遽戸崎騎手から乗り替わった藤岡騎手でしたが見事なエスコートでした。ただ、今回は相手が悪かったとしか言えませんね。あのレースでこの馬に勝てる牝馬は他にアーモンドアイくらいしかいなかったのではないでしょうか。

そのくらいクロコスミアの適性を巧みに引き出した素晴らしい騎乗だったと思います。

 

3着 ラヴズオンリーユー

鮮やかな末脚で勝ってきた同馬でしたが、スローを見越したのか先手を取ろうかと言う積極的な競馬に出ました。結果としてはデムーロ騎手のファインプレーだったのですが、勝負所でややもたついてしまい十分に加速がついたのはゴールが近付いたところでした。決して弱くはないですが、印象としては並のG1級牝馬というところでしょうか。戦前に陣営からは順調さを示すコメントも出てはいましたが、目標とするレースを回避しての休み明けだっただけに決して楽な調整ではなかったかと思います。

ただ、立場的にクロコスミアを早めに捉えに行かなければならなかった状況や、僅か5戦のキャリア。ここからの成長次第でしょう。

 

4着 センテリュオ

ルメール騎手が上手く遅くなったペースに乗せてきた印象です。ラヴズオンリーユーが早めに仕掛けていかざるを得ないのに対して一拍置いて僅かに脚を溜めていった分、最後の脚が生きて、上位に迫る形となりました。

ただ、馬の能力もさながらここはルメール騎手が巧みに走らせていた印象です。

 

5着 クロノジェネシス

比較的前目にはつけていたものの前とは少なからず差もあり、33.3の上がりで迫るも流石に届きませんでした。

着順こそ5着でしたが、内容的にはそう悪くはなくこの馬の現時点での能力は出せているように感じます。かと言ってあれ以上前で競馬を進めることは難しかったようにも思えるだけに仕方なかったとも言えようかと思います。

今後、牡馬を相手にG2戦線あたりで戦うことが予想されますが、十分勝負になるだけの力量は持つように感じます。