うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

2020年 宝塚記念回顧

出張先の盛岡から先程帰ってきました。

少々遅くなりましたが、28日の宝塚記念の回顧をしていくことにしましょう。

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降水で渋っていた馬場が回復しつつあった28日の午後、阪神競馬場を急に豪雨が襲いました。

雨が降っていた時間こそ長くはなかったものの、たちまち馬場は悪化。

JRAの発表は稍重となりましたが、稍重というよりは重馬場に近いコンディションへと変貌した中で宝塚記念が行われることになりました。

 

そんな宝塚記念で圧巻の走りを見せることになったのはクロノジェネシスでした。

 

前日売りのオッズでは単勝3番人気だったクロノジェネシスでしたが、この馬場悪化を受けて人気が上昇、最終的には単勝4.1倍の2番人気となっていました。

 

そしてレースが終わってみれば、後続を全く寄せつけることない6馬身差の歴史的大楽勝。

この馬もまた有数の名牝の1頭として歴史にその名を刻むことになりました。

 

 

では、レースを振り返ってみましょう。

 

宝塚記念 総括

前述の通り、レース前に強烈なゲリラ豪雨が競馬場を襲い馬場状態は急激に悪化した中でレースは行われました。

スタートで致命的な出遅れとなった馬はなし。モズベッロはいつものように出遅れていますが、そう大きなものではありませんでした。

ハナを切っていったのはトーセンスーリヤ。明確に先手を取る意思を示しながら逃げる同馬をそれほど離されることなくワグネリアン、ダンビュライトらが追走。

ペルシアンナイト、ラッキーライラック、ブラストワンピースがこれらに続いて追走。

クロノジェネシスはこれら先行集団を前に見る8番手付近での追走、その直後に人気のサートゥルナーリア。そのやや後ろにモズベッロが付け、キセキ、グローリーヴェイズカデナらは後方での競馬。

逃げ続けるトーセンスーリヤの1000m通過タイムは60秒ジャスト。

向こう正面では序盤後方につけていたキセキが徐々に位置取りを上げて中団付近にまで接近、クロノジェネシスの直後に位置。

コーナーを迎えても先頭は依然としてトーセンスーリヤ。3コーナー付近で早くもキセキがペースを上げ、それに呼応するようにクロノジェネシスも早めに進出。

外目から捲るように脚を伸ばしたクロノジェネシスとキセキが先頭集団へと迫り、ラッキーライラックも逃げ続けるトーセンスーリヤに並び掛け、サートゥルナーリアも早めにスパートを掛けて馬群は直線へ。

ラッキーライラックが先頭に立つ、がそれも一瞬のことで外からクロノジェネシスが絶好の手応えでこれを交わして先頭に。外からキセキが迫ろうとするもその差は縮まらない。

あとはクロノジェネシスの独壇場。残り200mからは後続を引き離すのみ。

クロノジェネシスはキセキに6馬身差を付ける大楽勝。キセキは最後までしぶとい脚で3着に5馬身差で入線。ラッキーライラックは早々に脚が上がって上位争いから脱落、サートゥルナーリアもゴール前では脚が上がって失速し、モズベッロに交わされて4着。

 

では、200m毎のラップを見ていきましょう。

 

12.3-10.9-11.4-12.7-12.7(前半1000m60.0)

12.4-12.4-12.4-11.9-12.1-12.3(後半1200m73.5)

 

一見すると「やや早い」くらいのペースに見えますが、ラスト400mはクロノジェネシスが独走してのもの。

同馬の存在を別にして考えてみると見えてくるのはかなり厳しいペースだったということ。

特に序盤はトーセンスーリヤがハナを切るという意思を示すも、他馬も悪化した馬場を意識してかこれに離されることなくついていきました。

結果的にこのポジション争いがペースを引き上げ、序盤の600mは34.6と馬場を考えればマイルG1並のペースとなります。

向こう正面でペースが落ち着くのですが、このペースダウンを巧みに利してポジションを上げたのが武豊騎乗のキセキでした。

3コーナーではクロノジェネシスとキセキが早めに接近し、サートゥルナーリアはワンテンポ早めに仕掛けざるを得なかった分、ラストは失速してしまいました。

ラッキーライラックは厳しいペースの中で先行しながら勝ちに行くべく早めに先頭を窺う積極的な競馬を試みたものの、その代償は大きく最後は完全に止まってしまいました。

 

では個々の馬について見ていきましょう。

 

宝塚記念上位各馬寸評

1着 クロノジェネシス

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好スタートで鞍上が意図した位置を上手く取れての追走。向こう正面では北村騎手が抑え気味での追走となり、3コーナー付近でキセキが早めに動くのに合わせるように早めに進出。

直線で気合をつけるや有無を言わせぬ圧倒的な走りでスタミナが尽きる後続を遥か彼方に置き去りにしていきました。

こうした時計の掛かる馬場に高い適性を持っていたのは間違いないでしょう。また、本質的には一瞬の斬れよりはスピードの持続力に優れたタイプでこうしたペースで進んだこともこの馬には向いていました。

そうした意味では同馬におあえつらえの展開になり、上手くハマったといって良いかと思います。

ただ、それだけでなく馬体も昨年から20キロ以上増加してきているように馬自身が大きく成長していると見るべきでしょう。

 

2着 キセキ

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鞍上の武豊騎手が完璧に乗りこなしてきました。序盤はゆったりと追走し、ペースが落ち着くタイミングを見計らって自身のペースを保ちながら位置取りを上げています。

3コーナーでは捲り気味にペースを上げ、そのまま最後まで脚を持たせて2着。

勝ち馬には離されはしましたが、持ち味であるスピードの持続性の高さを生かすには完璧と言えるペースメイク。馬自身の出来も良くなって力を出せる仕上がりでもあったのでしょうが、今回は名手武豊の天才的な騎乗技術が光ったと言って良いでしょう。

基本的にワンペースでスムーズに走れれば簡単には止まらないこの馬の特徴を巧みに生かしてきました。

邪推ですが、外が伸びやすい馬場も含めて武騎手は予めこのシナリオをイメージしていたのではないでしょうか。

 

3着 モズベッロ

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勝ち馬同様にこの馬も瞬発力はやや劣る者のパワーを要する馬場で一定のスピードを維持する能力には優れており、池添騎手もそれを踏まえた上で持ち味を生かす競馬をしてきたことで最後に早めに仕掛けたサートゥルナーリアを交わしています。

ディープブリランテは瞬発力の高さに定評のあるディープインパクトの産駒ですが、母父のルーソヴァージュの影響が強いのか斬れはそれほどなくスピードの持続性に優れた中距離タイプの種牡馬となっています。それだけに高速馬場では厳しいと思われますが、こうした馬場では相対的に浮上してくるタイプであると見ています。

 

4着 サートゥルナーリア

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同馬にとって厳しい状況の中で勝利を意識しての競馬を試みた結果がこの4着でしょう。タフな競馬となったのは有馬記念と似てはいますが、今回は立場が違いました。

有馬記念とは違い、1番人気ということもあって早めにクロノジェネシスとキセキが仕掛けていったことで勝ちに行くためにワンテンポ早く仕掛けざるを得なかった。その分、ラストは止まってしまいましたね。

3~4コーナーでもう少し脚を溜められれば3着にはなっていたでしょう。

そもそも瞬発力に優れた馬だけにこの馬場と厳しいペースの中ではこれが精一杯だったのでしょう。評価を落とす必要はないと思います。

天皇賞(秋)香港カップあたりでは十分に期待できると見ています。

 

6着 ラッキーライラック

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こちらも厳しい展開の中で積極的に勝ちに行く競馬を試みた結果、スタミナを使い果たしてバテてしまいました。多少の馬場悪化はそれほど苦にはしない馬だとは思いますが、それ以上に馬場とペースにスタミナを削がれてしまったのではないかと見ています。

この馬にとってはスロー~平均ペースの2000mあたりがベストでしょう。

着順や着差的には決定的な差を付けられているようにも見えますが、それほどの差はないと見ています。

 

 

クロノジェネシスのあまりに圧倒的な走りに目がいってしまうレースでしたが、人気の各馬はそれぞれの立場で勝ちに行く競馬で挑み、結果的に馬場や展開の歯車が噛み合ったクロノジェネシスがその資質を最大限に発揮したというレースだったかと思います。

 

尚、クロノジェネシスの父である凱旋門賞馬バゴですが、本質的にはステイヤーではないと認識しています。

勿論、スタミナは一定以上はあるのですが、本当に向いているのは2000mくらいだと思っています。

ただ、瞬発力はあまりなく日本の早い馬場での2000m戦ではなかなか持ち味を発揮できないタイプであると見ています。

バゴ産駒と言えばビッグウィークが菊花賞を制していますが、菊花賞も斬れる脚が求められない舞台だったために相対的に浮上してきた、という認識です。

バゴの父であるナシュワンもそうしたタイプでしたし、こうした馬こそがヨーロッパで活躍しやすいのではないかと思います。