うまコラ

競馬歴28年の筆者が綴る競馬コラム

2019年 凱旋門賞回顧と共に

最強牝馬エネイブルの前人未踏の凱旋門賞3連覇への挑戦、日本から3頭のG1ホースの参戦もあり、注目度が高いものとなった今年の凱旋門賞。

実際、日本国内での馬券販売額も海外レースとしては史上2位の41億5597万9700円を記録しています。

 

そんな注目の1戦を制したのは9番人気の地元フランスのヴァルトガイストでした。

直線では好位を追走していたエネイブルが満を持して抜け出しに掛かるも、ゴール前まで衰えを見せない脚色で外からヴァルトガイストが交わし去り、エネイブルの連勝劇に終止符を打ちました。

一方、日本から参戦した3頭はいずれも大きく離されての惨敗となってしまいました。

 

 

この日のパリロンシャン競馬場ではレースを前に土砂降りの雨模様に。

たちまち馬場は悪化し、日本で言う重馬場へと変貌します。

レース前には雨は上がり、日が差す天気へと回復するものの馬場は依然として重たさを残したまま。

パリロンシャン競馬場の芝2400mコースは最初のコーナーの付近に大きな傾斜があり、その高低差は約10mと日本の競馬場には見られないものとなっており、馬場の悪化と相まって非常にタフなコースへとなっていました。

 

スタート時刻が大きく遅れることも少なくない欧州のレースですが、ほぼ予定通りの時間にスタート態勢となり、すんなりとスタート。

フィエールマンは良いスタートを切れたこともあり、当初の中団待機策を一転、ルメールは馬の行く気にも任せて先行させる策へと変更、豊かなスタミナを生かすべく逃げたガイヤースを追う形でインの3番手付近を追走。

そのフィエールマンの直後、4番手付近外目をエネイブルとデットーリのコンビが追走する展開。

その一方でキセキはやや出遅れてしまい、こちらも当初目論んでいた前での競馬を諦め、後方からレースを進める形に。

ブラストワンピースも前には行かず中団から進める形でレースを進めます。

 

道中、大きく隊列が崩れることなく淡々とレースは進んでいきます。

ガイヤースは後続との差を離し気味に逃げたい素振りを見せるのですが、後続馬はそれほどリードを許さずに追走。フィエールマンも行きたがる様子を見せており、ガイヤースのリードはそう大きく広がることはありませんでした。

 

フォルスストレートに入るも中団以降につけていた馬達がその差をやや詰めてきましたが、大きく隊列は変わらず。

そのフォルスストレートからホームストレッチに向こうという時点で早くもフィエールマンの手応えが怪しくなり、鞍上のルメールの手が動き出します。

と、共に外に付けていたエネイブルがジワッと進出、中団以降に付けた馬達もその差を縮めてきます。

ブラストワンピース、キセキもその馬群と共に直線へと。

長い直線、各馬が本格的に追い出したのは残り400m付近から。

エネイブルはジワジワと先頭との差を詰め、いつでも前を捉えられる態勢へと入ります。

フィエールマンは直線入り口当たりで失速し、早くも脱落。争覇圏外へと消えます。

 

残り200mを切り、いよいよ手にも力が入るこのタイミングでエネイブルが先頭に立ち、後続との差を広げに掛かります。

 

と、馬群の中から脚を伸ばしてきた馬が3頭。

その中でもヴァルトガイストが着実に脚を伸ばしてきており、ラスト100mを切って外からエネイブルへと襲い掛かります。

ソットサス、ジャパンはこの時点で既に脚が上がってしまい、前には届きそうになく勝負は2頭の戦いに。

 

最後は脚が止まってしまったエネイブルに対してゴールまでそのしぶとい脚を使い続けたヴァルトガイストがエネイブルを捉えて勝負あり。

 

ヴァルトガイストが昨年4着の雪辱を晴らす大金星でG1の4勝目を飾りました。

 

エネイブルは結果的にヴァルトガイストから1馬身3/4差の2着に。

3着にはフランスダービー馬ソットサスが入り、ジャパンは4着と地元フランス馬が意地を見せる結果となりました。

日本馬はキセキが7着、ブラストワンピースは11着、フィエールマンは最下位12着に終わりました。

再先着のキセキでも先頭からは3秒以上離されており、完敗としか言いようのない結果となりました。

 

結果的にはペースの早さと馬場の重さが各馬のスタミナを激しく奪い取っていく消耗戦となっています。

実際、前に行っていた馬はエネイブル以外は全滅しています。

上位をガリレオの血を引く馬が独占したのも頷ける展開となっています。

その厳し過ぎる展開で3番手を追走したフィエールマンに至っては直線を前に力を使い果たし、最後は完全にバテて歩くようにゴールしてしまいました。

ブラストワンピースも似たようなもので、直線では完全に脚をなくしてしまい勝負に持ち込むことすら叶いませんでした。

キセキは出遅れたことで後方待機したことが結果としてスタミナの浪費を抑えることになり、他の馬ほどバテなかったようですね。

 

エネイブルにとっては非常に悔しい敗戦でした。

同馬の陣営はかねてよりあまり重い馬場になることを望んではいなかったあたり少なからず不安はあったものと思いますし、脚を余す形で取りこぼす危険性を冒せないという「人気馬の重圧」も少なからずあり、この厳しいペースに於いても好位からのレースを

選択せざるを得なかった、そんな印象を受けます。

デットーリの騎乗にはミスらしいミスはなかったように思います。

 

その結果としてラスト100mを過ぎたあたりで脚が上がってしまうことになるのですが、最も強いレースを見せたのは紛れもなくこのエネイブルだったかと思います。

 

 

日本から遠征した3頭には残念な結果となりました。

ただ、1ファンとして思うことはこの舞台を夢見る以上、絶対に挑むことを諦めては欲しくないということ。

この日本馬が凱旋門賞に挑んで50年。

本格的にこのレースに挑むようになったこの20年間、その全てで敗れ去ってきました。

…が、挑まなければ100%勝つことはありません。

挑みむことで可能性は0ではなくなります。

 

これまでの歴史を見ても、日本馬が勝っていてもおかしくはないレースもありました。

 

挑み続ける限り、必ずや勝利を、夢を掴む日はやってくると思います。

 

 

そして、決して高いとは言えないその可能性を追い求めて数々の努力、工夫などを積み重ねている関係者の方々には大きな敬意を払いたいと思います。

 

 

 

 

 

あと、凱旋門賞の度に一部で聞かれる意見として「JRAは凱旋門賞制覇のためにも高速馬場を作り続けるのでなく欧州の馬場に寄せた馬場作りをすべき」だというものに対して。

 

私個人の解釈にはなりますが、JRAは凱旋門賞に勝つための団体ではありません。

故に彼等は日本の気候や置かれた環境などに合わせた馬場を作り出しています。

実際、欧州の競馬場は自然の丘などを整備して競馬場へとしているものが多いのですが、その結果勾配が大きいことが多く、変則的な形状のものも多くなっています。

一方で日本はアメリカなどと同じで競馬場を人工的に作っているため、平坦なコースが多くなっており、勾配は小さいものとなっています。

芝にしてもそもそもが欧州と日本では気候がまるで違うため路盤にしても芝にしても同じようなものにすることは出来ません。

JRAが目指しているのは凱旋門賞に寄せた競馬作りではなく、日本の競馬にとって良い方向に向くようにすることです。

 

日本ではイギリスと違い、ブックメーカーは法律上認められていないため、馬券は胴元であるJRAなどが販売します。

その都合上、競馬場は馬券を購入する人の多い都市部に建設された経緯があります。

今でこそ、馬券はインターネットで買うのが普通になり、どこで競馬をやっていようとあまり関係はなくなっているのですが、少なくとも現存の競馬場が建設された頃にはそうして集客を集めて売上を挙げる必要があったわけです。

イギリスやフランスの競馬は元々がギャンブルありきではなく、貴族の社交の1つであったわけですから都市部に競馬場を作り、多くの集客を求める必要性はそれほど高くなかったため、そもそもの競馬の成り立ちが違うということになります。

 

そこに優劣などないと思います。

 

JRAはそのような運営によって世界的に見ても非常に高い売り上げを作り出すことに成功し、その結果として賞金水準は世界最高となっており、ビジネスとしての競馬社会を維持し続けてきています。

仮にJRAが田舎の丘陵などに競馬場を作っていたなら間違いなく今の姿はなかったことでしょう。

 

是が非でも凱旋門賞を!というならインターネット環境の整った今ならば、冷涼な気候の高原などに競馬場を新設すれば、欧州の競馬場に近いものも作れるのかもしれませんが、それはやや非現実的なものとなります。

 

個人的には今の日本競馬は他国の真似をする段階は既に過ぎ去っていると思います。

日本の環境に於いてベストな競馬を行えば良いと思います。

 

日本は日本、欧州は欧州、アメリカはアメリカだと思います。

違いと言うものは必然的にあるものだと思います。

そしてその違いを否定する必要はないと思っています。

 

恐らく、と前置きしておいた上でですが、JRAはそうしたスタンスを取っているのではないかと思っています。

凱旋門賞に勝つ、という願望は勿論JRAの関係者にもあると思いますが、それにより日本競馬の本質まで変えさせることはないということではないでしょうか。